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□カタルシス
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気が付けば目で追っていた。
幼稚舎からこの学園に通う俺は、昔から見かけの作りから優遇されていた。
幼児に家柄や地位などを説いても理解を得られる筈がない。故に広く自由で一般的な付き合いができる。
しかし小学生ともなればそうはいかない。
意味は分からなくとも【あの子は特別】と言われれば無垢な心は信頼している両親を疑いもせずに 特別だと信じ込む。
子が親を信じるのは自然の摂理だ。
仕様がない事だ。
そんな幼い時に訳も分からず植え付けられた固定観念は成長するにつれ確実になっていく。
理由は訳も分からない時期が終わるからだ。そんな幼い頃から親に注意を促される様な人物はやはりそれなりの家柄。自分で考えられる歳になれば自ら敬うのだ。
俺は敬われる方の人間だった。
同級生に敬語を使われる様になる頃には、周囲の人間を避けるようになっていた。
笑顔 ため息 瞬き一つでさえ、俺のする行動に一々リアクションする暇人が増えて毎日が息苦しい。
上に立つ覚悟も理由も無かったから、キツかったのを覚えている。
「ひーづきくーん。なぁにボーッとしてるの?」
「…佐竹か。」
食堂の二階、特別役員席。
また眼下を通ったあの人を目で追いながら昔の思い出に耽っていて佐竹の様な派手で煩い人物が近付いてきた事にも気付けなかった自分にゲンナリしながらも、同じテーブルに座ってきた佐竹の相手をする。
「冷たぁ。てか何見てたのー?」
「お前には関係無い。」
「…緋月くんったら最近ご機嫌ナナメ。コウちゃんさみしいっ!」
「黙れ煩い節操なし。」
あの人はいつの間にか視界からきえていた。
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