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Side 翠
緋月に言われた通り、裏庭に向かった俺はちょっとおかしかった。
いつもなら誰かの言いなりになるなんて虫酸が走る位嫌だし、シカトなんてわけない。
なのに何故か大人しく言うことを聞いてしまった。
そんなに弱ってるつもりは無くとも、想像以上に参っているらしい。
無駄に高い校舎は思いも寄らぬ所で役に立ち、屋上からわざわざ裏庭に出ずとも見下ろせてしまう。
裏庭と言うだけあって人通りは少ないし、それを一望できるような校舎の方だって例外ではない。
窓を開け放ち、肘を付いて下を眺める。
髪を攫う風は重く緩やかで、誰もいないのに離れた喧騒だけが浮かぶこの状況がやけに感傷的な気分にさせる。
「仕返し、ね…。」
なんだかおかしくて笑ってしまった。
悠が誰かに取られたら、俺は狂ってしまうと思っていたけどそれはどうやら違ったようで、こうして毎日を過ごしている。
胸に残った喪失感だけじゃ俺は壊れなかった。
多分、
多分、心の奥の奥の見えない、存在さえも知らないような深層では分かっていたのかもしれない。
嗚呼、離れてく。
そんな風に思った。
好きな人ができたんだと悠が言ったあの日に、確かにそう思った。
だから、準備はできてたんだ。
俺さえも知らない内に、失恋やその他諸々の衝撃に対する準備は万端だった。
だから思いの外平気なんだ。
悠はいないのに。
悠がいないのに。
結局、俺を笑い飛ばす人間なんか誰1人としていない。
泣きたい。のに、何かが阻む。
そうして悩むうち、気が付いた。
なんだ、俺はあの日から諦めてたのか。
気が付いた時も、涙は出なかった。
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