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限界かもしれない。
我慢しようとあれこれと脳内で策を練るが意味はない。
意味をなす前に霧散していくなけなしのアイディア達に、段々と怒りの色が濃くなっていく。


「聞いてんのかよ悠!!」

「聞いてるよ、」


大声に掻き消された俺の声。
人気の無い裏庭で永城の説教が始まってからもう随分と時間が経っていた。


「お前は仮にも冬哉の恋人なんだから具合悪いのくらい気付いてやれよ!!」


誰のせいだと言ってやりたいのを抑えて、黙っている。下手に反論して苛立つ永城を逆撫ですれば理不尽な理由で更にいきり立つ事間違いなしだ。
どさくさに紛れて 仮にも とか言っているが、仮じゃない。正真正銘付き合っている。

ほとほと失礼な後輩だ。


「俺は直ぐに分かったぞ!?何でお前はわかんねーんだよ!!」


ギリッと噛み締めた奥歯が痛い。

何で分からないかだって?

そんなの、答えは至極簡単だ。
分かっているけど言わないだけだ。休ませてあげたいのは山々だが、永城の起こす問題のせいで風紀と生徒会は今嘗て無いほど忙しい。

誰もが分かっている。
疲労から体調が優れないのは、何も緋月に限った事ではない。
篠崎も久我も支倉も湊も永倉も竹内も奈緒も、あの佐竹でさえ(←失礼)窶れている。
雨宮に関しては既に寝込んでいるし、越波と古里も覇気の無い笑顔を見せている。


「やっぱり悠は冬哉に相応しくない!!」


散々言いたい放題した挙句、それだけ吐き捨てて去っていった永城に苛立つ。

どうしてだと。

本当に彼は分からないのだろうか。何故分からないのだろうか。

俺が間違っているのだろうか。
いつまで経っても馴染めない彼を責める俺が、間違っているのだろうか。


あの話し合いからまだ3日。

頭の中はぐちゃぐちゃだった。
永城の当たりはやっぱり俺にだけ格別にキツイ。

大丈夫だと言った緋月の言葉を信じ続けるには些か限界がきていた。

毎日ああやって怒鳴る永城を前に黙っていると、何だか空虚な気分になるのだ。
俺にはない溢れんばかりの自信が意思を持って俺を責め立てる。


「きらいだ。」


嫌いだ、彼は。
好きにはなれない。
それはきっと向こうも同じで、仲良くなる気はお互いに無いんだろう。


「だいきらいだ。」


頼りなく吐かれた拒絶の言葉は、湿気を含んだ重い風がさらった。

季節はもうすぐ梅雨だった。


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