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何を言われたのか良く分からなかった。
整った顔を歪ませながら怒鳴る永城に、真剣な顔で緋月が言ったのはどういう意味だったのだろう。


『瀬戸の方が綺麗だ。』


それは、

まさか、


『俺とそいつ、どっちが綺麗だ!?』


つまり…。

期待するなと忠告する声は本当に小さくて、高鳴る心音に掻き消された。
泣きながら寮に走っていった永城に取り残された野次馬と俺達。


「冬哉ってやる時はやる奴だよね。」


ひょっこりと周りを囲んでいた生徒の群れから顔を出した篠崎が気味悪く笑いながら俺の目の前に立った。

そして、生徒から悲鳴が上がる位可愛い笑顔を晒した後、


「はるちゃん、」

「え、?」


思い切り抱き着かれて後ろによろめくと、背中に緋月の手が当てられる。


「冬哉なんかに渡すのすっ―――――っごい嫌だけど、」

「おい。」

「良かったね。」


物凄く嫌な事をアピールし、緋月に睨まれているが当人はどこ吹く風で全く相手にしていない。

多分、本当だったら手放しで喜ぶ様な事が目の前で起こっている。実際嬉しいし泣きそうだ。

だけど、翠のあの目と奈緒の嘘が引っ掛かって心から喜べない。
きっと、翠は俺を思ってくれていた。今まで全然気が付かなかったけど、昨日の事で確信した。
自分勝手な俺が本当は知りたくなかった翠の気持ち。いつも緩くかわすしていく翠が、俺がキスを拒んだ瞬間に剥がれた気がした。
翠に言わなければならない事はハッキリしたのだ。

問題は奈緒。

きっと奈緒のあれにも俺が絡んでいるのは確実で、分かってあげられない気持ちを、聞きたい。


「ありがとう。」


そう言って篠崎の肩に顔を埋めれば、耳元でクスクスと篠崎が笑った。


「冬哉が告白したのに、本人ほったらかしで抱き合ってる僕らってなんだろうね。」


その通りだと同意して笑ったら、涙がでた。


嘘みたいなのだ。
緋月が、俺を。なんて。
遠くから見ている事しか出来なかったあの日々はまだこんなに鮮やかなのに、緋月は次々に俺に色を塗る。
モノクロが色付いて、ふわりと頬を撫でる風さえも彩を含んでいるようだった。


「俺は、緋月がずっと好きだった。今でも、」


篠崎に抱き着きながら話し出せば、少し笑ったのか、体が揺れた。


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