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「いいたい事があるならハッキリ言えよ!!」


その声はそれまで漂っていたシリアスな空気を一掃するには十分な音量だった。

知らずに出る溜め息を持て余したまま食堂に入る。

近くから上がる黄色い声は波の様に広がり、二階席までの道はすんなり開いた。


視界の端に永城が写る。
目が合った気がしたけど、気に止めずに前を見据える。
歩調を緩めれば奈緒が俺よりも少し前を歩く形になり、うまく永城の姿を隠した。


「な、んで?」


煩い食堂。
俺には何故か永城のその小さな呟きが聞こえた。


「なんでだよ!なんで俺を無視するんだよ!?」


俺と永城の間には物理的なそれなりの距離がちゃんとあった。
それにも関わらず、次の瞬間には肩を痛いぐらいに掴まれていて知らずに眉が寄る。


「なぁ、どうしてだよ悠!!」


半場すがり付くように叫ぶ永城。
取り乱しているせいか、鬘だと思われるボサボサなそれから綺麗に金に染まった地毛が一筋溢れていた。


「永城…。」


ここは食堂。
この時間帯はかなり込むから物凄い目立っている。

どうして、とそればかり繰り返す彼に何をいっても無駄だ。
これは予測の範疇を越えないが、きっと俺の声は届かない。


「奈緒、ちょっと出るね。」


泣き崩れた永城を支えながら奈緒に断りを入れる。
いくら嫌いでも目の前で泣かれたら放って置けない。

食堂の出口へ歩き出した俺の背に奈緒の言葉が飛ぶ。


「お人好しは損すんぜ?」

「別にいいよ、慣れてるから。」


暗に、止めておけと言われているのに気が付かない振りをしてそのまま食堂を出た。

俺だって今ここで永城を慰めてた所でなんのメリットも無いこと位分かっている。
分かっているのだ。そんなことは。

ただ視線を反らしたくらいでこんなに騒ぎ立てるなんて尋常じゃない。
大方予想はつくけれど、やっぱり見て見ぬ振りもできないしこうする他に方法など思い付かない。

このまま、永城が心折れてしまえば緋月を取られる心配もないのにつくづく馬鹿だと自分でも思う。


「大丈夫?」


誰も居ない所で真っ先に思い浮かんだのは、つい昨日食事会を開いたレクリエーション室。
静まり返った大きなこの部屋に静かに声が響いた。
幾つも並んだ蛍光灯の内、自分達がいる一列だけを発光させているため、奇妙な孤独感が押し寄せるが気にしないことにする。


「ごめん、取り乱して。」


ポツリと吐き出された音の弱々しさに、小さな声で会話する事も出来るのだと少し感心してしまった。


「…初めて?自分を受け入れてもらえないのは。」


俯いた永城にそう言えば面白いくらいに肩が跳ねた。


「皆に陰口を言われるのは、初めて?」


畳み掛けるように言葉を重ねれば、漸く永城は此方を見た。


「今まで、可愛いとか凄いね、とかそういう事しか言われたこと無かったんだ。なのに…」


グッと唇を噛み締め、鋭く俺を睨む永城。

普段ならその迫力に堪えきれなかっただろう。しかし、今の俺には効かない。
俺自身、別の事で落ち込んでいるし混乱もしている。正直、俺を睨む永城を可哀想だとさえ思う。


「この学園はおかしい!親衛隊とかイジメとか制裁とか!お前ら間違ってる!!」


怒鳴る永城を静かに見つめた。

鈍いと言われている俺でさえ、学園の異常を盾にして不満を喚く永城の本音に気付いている。

(どうして誰も俺を褒めてくれないの?
どうして誰も俺に構ってくれないの?
どうして誰も俺を甘やかしてくれないの?)


どんなに言い募ろうと変わらない本質。
永城の本音。


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