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side 奈緒



「副委員長!永城の下駄箱が」
「永城の机が」
「永城のロッカーが」
「永城の私物が」

「だからほっとけっつってんだろ。」


朝からそんなどうでもいい情報ばかりが入ってくる。
こんな下らないものは永倉には報告できないし、かといって見過ごせるかと言われたらそれもしにくい。
すると必然的に俺の元に報告が上がるわけで、迷惑極まりない。

以前佐竹がいっていた「無駄に情報通になれる」と言っていたのはこれか。
確かに無駄に情報が集まる。

つうかほっとけって言うのが分かんないのかコイツラは。

溜め息をつきかけた時、佐々木が遠慮がちに口を開いた。


「でもホント容赦ないですよ、今回は。」


佐々木の方を向けば、罰が悪そうに目をそらしながら言葉を続けた。


「一回見れば副委員長も分かりますよ。本当に、スゴいですから…。」


その、うんざりしたような佐々木にちょっと興味を持ったのがいけなかった。

その後、興味本位で見に行ってみた下駄箱は佐々木の言う通りオオゴトになっていて報告したくなる気持ちが分かった。


というか…。

この学園の親衛隊とやらは加減を知らないのだろうか…。

頭が痛くなったのはきっと気のせいではない。




side 瀬戸




朝、部屋を出たときに偶然いきあった支倉と共に寮から少し離れた校舎に向かった。

登校する道は喧騒に包まれていて、笑い声や話し声が入り乱れながら静かに歩く俺達を取り巻く。


「今日から、だったよな。」


隣を歩く支倉が不意に口にしたフレーズは、今朝自室で何度も心中で考えていた事とまるで同じで少し笑ってしまった。


「…何がおかしい。」


眉を潜めて拗ねたようにしている支倉が可愛くてまた少し笑う。


「おんなじ事考えてるな、って思って。」


そう言えば支倉も口元を緩めて前を向いた。


「瀬戸に会う前に夏川にも会ったら、同じ事を言っていた。」


それに二人して笑えば周りの喧騒は一瞬遠退いた。

多分役付きや親衛隊幹部らは同じ事を思っているのだろう。
静かにひっそりと受け継がれてきた檻の中の伝統が見ず知らずの人間に壊されようとしている。
許された自由な時間の最後を穏やかに、平和に、最も自由に過ごすのに適したこの空間を乱されるのは甚だ不愉快で心底迷惑なのだ。

これはこの学園の生徒における最高権力を持つ生徒会が早急に手を打たねばならない、実に由々しき問題なのだ。が、しかし。


「…俺はこんな低レベルなイジメなんかに絶対負けないからな!!」


昇降口に着くや否や聞こえてきた怒鳴り声に、一抹どころではない不安を覚えるのは致し方ないだろう。


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