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【数歩先の背中】
編入生が緋月に惚れた。
はっきり言って俺は彼が嫌いだ。
五月蠅いし礼儀知らずだし宇宙人だし、不潔だし。
別に容姿で判断しているんじゃなくて、最低限の身だしなみは整えるべきだしそれもせずに容姿を貶されたからと言って反論出来る要素は彼は持ち合わせていない。
だから俺や奈緒や永倉には好かれない。
だけど、緋月は…?
俺にはない社交性を持っている永城にアタックされ続ければ緋月もその気になってしまうかもしれない。
忘れるなんてどうかしていたとしか思えない。
緋月は人気者
彼はこの由緒正しき学園で二年連続で生徒会長に推薦されているのだ。緋月の親衛隊はこの学園内でも一番の人数を誇っているし、所属している人は少なからず好意を持っているはずだ。勿論、loveの方で。
今まで分かっていたはずの事が、環境が変わって忘れてしまっていた。
遠くから見ていた時は、ちゃんと理解していたのに。
陰ながら慕っているのは俺だけではない。
当たり前の事だ。
本当に、どうかしていたとしか言い様がない。
二人で廊下に立ち尽くしたまま動けずにいた。
早鐘を打つ心臓と苦しくなる呼吸を落ち着かせようと、思わず力を入れた右手。
それでお互いに気付いた体温。
見上げれば苦笑する緋月にどこかホッとした。
今、緋月を独占している優越感。
こうして手を繋いでいるのは俺であり、永城ではない。
それが嬉しくて笑えば、緋月も笑顔になる。
静かな時間。
彼にはきっと作り出せない至福の時。
それを感じながら俺達はやっと足を進めた。
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