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【ディスプレイにこぼれた


side ???




竹内も無事に役員席へと戻り、食堂にいつもの喧騒が戻り、緋月と竹内で理事長に請求書を回す算段がつけられ、篠崎と瀬戸が食事を終え、久我と支倉も席を立った頃。


風紀委員室はそれはもう昼下がりに似つかわしくない雰囲気が垂れ流されていた。
下っ端はそんな空気を察して寄り付かずに逃げたため、いつも以上に殺伐とした光景に仕上がっていた。


そんな廊下に人影があった。


地毛であるが茶色がかった髪は猫毛らしく、フワフワと飛んでいて柔らかなのに神妙な面持ちで扉の前に立つ姿は疲れが滲んでいた。
せっかくの爽やかなスポーツマンルックが台無しになっている残念な彼の名は夏川湊。

不運にも噂の編入生の同室者となり、今回の食堂の一件で風紀委員室へと連れて行かれた後輩を心配して様子を見にきた所存である。

ちなみに、だが、緋月はならばと言って必要ならば状況説明もしてきて欲しい旨も伝えられているため、引き返すに引き返せないのだった。




side 湊



一応緋月に言ってきたし、休日だし問題は無いと思うけど、入っていいものか。

決して自分は優柔不断ではないが、隙間から漏れてくる怒気を孕んだ空気と 何より編入生とお近づきになりたくない気持ちのせいで未だにノックすら出来ずにいた。


溜め息を吐いたが、いつまでもこうしている訳にはいかないし、心を決めて扉をノックした。


「なんだ。」


明らかに機嫌の悪い永倉の声に苦笑いしながらドアノブを回すと、一番端にいた佐々木君と目が合った。彼は竹内の親友らしく、話に良く出てくるから覚えている。


「委員長、夏川さんですよ。」


扉を大きく開いて中に招き入れてくれた。その際に永倉に俺の事を伝えてくれたし、話には聞いていたけど本当にできた子だなぁ…じゃなくて。


「忙しいとこごめんね、永倉。」

「いや、どうした?」


空気が和らいだ永倉に安心して用件を言おうとすると編入生がいきなり話しかけてきた。


「なんで二人で話してんだよ!」


…空気が止まった。
いや、凍ったか?
どちらにしろ、意表を突かれた事には変わりない。


「えっと……?」


助けを求めるようにさ迷わせた視線は永倉に行き着いたが、何かに耐えている彼には期待できそうにない。


「今は俺が深雪と話してんだ!!」

「………深雪…。」


反芻するように綺麗で容赦のない委員長のファーストネームを呟くと佐々木君が血相を変えて俺の口を塞いだ。
そのまま耳元に唇を寄せられ、衝撃の事実を告げられた。


「ダメですよ、夏川さん。ホントは教えたくなかったのに副委員長がうっかり呼んじゃって機嫌ヤバイんっすよ。そっとしといてあげて下さい。」

「それは…気の毒だね。」


心底同情してしまう。その点からいえば瀬戸もなんだけど、永倉にそこまで目を付けられるなんて…気の毒だ。

分かったと佐々木君に伝えると少し笑ってくれた。よかった。

ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、またもや意味の分からない事を喚く編入生に佐々木君との和やかな空気も遮られた。


「内緒話はすんな!!陰口はよくないんだからな!!」


…本当に意味の分からない子だなぁ。
このままじゃ埒があかない。食堂での竹内の行動の意味が良く分かった。


「永倉、」

「?」


まだ何かを喚く編入生はシカトの方向で話を進めよう。


「緋月から、必要ならば状況報告をって言われたんだけどどうする?」


ニッコリ笑って言い放った湊は小首も傾げて見せた。
素でボケていても、瀬戸と違って自分の容姿は自覚しているのでわざとだ。

それは編入生以外のこの場の人間は知っているので動揺することなく話を進めてもらえたが、騒ぐ編入生は完璧にシカトだ。


「あ、佐竹。」

「んー?」

「相楽が来てると思うんだけど、会えるかな?」


一応聞いておく、という永倉の返答と共に佐竹が動いた。それを確認してから佐竹に問うと おんなじ部屋で話を聞くから。と笑顔で返された。


ありがとうと返し、一端風紀委員室からでる。
さっき、『嘘くさい笑顔は止めろ』と騒ぎ立てる編入生を思い出した。


「別に、」

「ん?」

「別に、今の笑顔が嘘くさいとか関係ないと思わない?」


何も言わない佐竹に心地よさを感じる。


「過ごしていく時間が解決するもんじゃないのかな、そういうのっていずれ変化するものだと思わない?初対面の人への愛想笑いは常識だし。」


そうだよね。と呟いた佐竹はいつものオーラ(遊び人オーラ)が消えていて、ちょっと吃驚した。


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