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入り口からざわめきが広がり、次に波打ったのは静寂。


「…翠、?」


瀬戸が小さく呟いた。


「知り合い?」


空気を読んで小声で聞くと、首を縦に振った。


「幼馴染みなんだ。」


そう言いつつ藤森から目を離さない瀬戸。
常にサボっているが成績は良好の謎多き人物だ。
しかも永倉とは家同士が古くから交流があるらしく、なんの功績があってか風紀に推薦されている。

当の本人は静まり返った空気を別段気にする様子もなく、真っ直ぐ階段までの道を歩く。
一歩踏み出せばモーセの十戒の様に道が割れるのは彼が垂れ流す不機嫌なオーラのせいだろう。


「翠タイミング悪い。」


そう嘆息した瀬戸は食べかけのトーストをかじった。


「騒ぎの中心は。」


抑揚の無い声が響き、食堂内に喧騒が戻った。声の主は言わずもがな、永倉 深雪風紀委員長。
脇にダルそうにたつのは藍沢で、ニコニコと笑っているのは佐竹だ。


「発端は誰だ。」


質問しながらも大体検討は付いているようでボサボサ君の方を目を細めて見ている。

そして(これは推測に過ぎないけど多分)粉々に割れた食器類を見たあと、ツイと二階席に目を向けた。


「こんなになるまで放っておいたのか、冬哉。」


真っ直ぐ緋月に向けられている視線をサラリと受け流して我らが会長は口角をあげた。


「これは風紀の仕事だろ、深雪」


悪びれもせずに言う緋月に永倉は早々に目線を外した。


「佐竹、壊れた食器の確認。藍沢はあのボサボサ捕まろ。……で藤森。」

「……何、永倉。」


永倉と緋月のやり取りの最中も躊躇うことなく歩みを進めていた藤森は階段まであと少しというところで永倉に捕まった。


「お前は事情聴取。ボサボサの隣の奴から。」


言い捨てられた藤森はこれ見よがしに溜め息を吐いたがしぶしぶとボサボサ君と言い合っていた子の手を引いた。


「こっちきて。…んーと、お前も。」


更に近くにいた人夏川の後輩の手も掴み、手を引きながら食堂を後にする。
佐竹もウェイターを呼んできて枚数と値段の確認をしている。
一見スムーズに進んでいるように見えるが、中心人物はそう簡単にいかなかった。

お察しの通り、ボサボサ君だ。


「なんで俺まで連れてかれなきゃなんないんだよ!!」

「はぁ?お前が起こした騒ぎだろ。」

「違げぇ!!あの小さいヤツが俺達の悪口言ったんだ!!!!」
  ・・
「俺たちねぇ…。」


意味深に呟いた藍沢は呆れたように脱力したあと、永倉に視線を向けた。


「俺には荷が重いんで、永倉サンお手本。」


茶化す様に言うと藍沢は一歩後ろに下がった。それをみた永倉は溜め息をつき、ボサボサ君に向き直った。


「誰が悪いかなんて聞いてない。それはいずれ分かることだ。…生徒会の皆様も居ることだしな。」


誰が聞いても嫌味だとわかる口振りに篠崎だけが愉しげに笑った。
そして篠崎の隣にいる竹内は立ち上がって、階下の佐竹の元に向かうようだ。
そういえば竹内は会計だったな。

ぼんやりとそんな事を思うも、場違いな怒号に思考が現実に引き戻される。


「だったらいいじゃねぇかよ!!俺は悪くない!」

「だから、そんなモンは直ぐにわかるんだよ。だが、お前が中心にいたのは間違いない。事情を聞く。判断はそれからだ。」

「だったらここで聞けよ!!俺は疚しい事なんかしてない!!」


凄いな。
小さく緋月が呟いた。
篠崎も片方の口角がピクピク痙攣してて、久我と夏川は苦笑いにさえ失敗していた。

成る程、確かに彼は宇宙人のようだ。


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