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つめることしか】



なんなんだ、コイツは。

引き吊った口元を元に戻せない。
見開いてしまった目が拒絶の色を映すまでそう時間はかからなかった。




ほんの数十分前


「こんにちは、細川さん。」


広大な敷地面積を有するこの学園の正門守衛を務める細川さんに挨拶をし、今日の用件を伝えた。


「瀬戸君も大変だね。」


初老に差し掛かっているこの人はいつも目を糸の様に細めて笑う。
私は一般人だから と生徒に余計な口出しもせずにただ話を聞いてくれる細川さんにはわざわざ校舎から30分かけて相談にくる生徒も多い。


「でも楽しいですよ。」


以前会った時はまだ表情筋がカチカチの時だったからか、上手く笑って見せると一瞬吃驚した顔をして、目がなくなるんじゃないかと思う位細めて笑ってくれた。


「やっぱり君も笑顔が一番ですよ。」


無表情でも綺麗でしたけどね。と続ける細川さんに二人で笑い合いながら編入生の到着を待っていた。



待てど暮らせど来ない。
到着したら理事長室に案内するように言われていたので一回緋月に連絡を入れた方がいいかもしれない。
この時点で予定時刻を十五分過ぎている。
理事長とは親戚だと言っていたので既にそっちには連絡が来ているかもしれないが一応念のためだ。


「細川さん、ちょっと遅れている事を連絡入れてきますね。その間に編入生が来たら待ってるように言っておいて下さい。」


一言細川さんに言ってからその場を離れる。


数回のコール音の後に緋月は出た。


『どうした?』

「編入生の到着が遅れてるから、理事長に伝えてもらってもいいかな?」

『分かった、未だ来てないのか?』

「ああ、今細川さんに立っててもらってるんだけど………。」


続きを言うことは無かった。
何故なら…


「デケー!!!!ホントに学校か!?」


とても大きくて不粋で品の無い声が響いてきたからだ。


「ごめん緋月、来たみたいだ。」

「そうみたいだな。……気ぃを付けろよ?」

「うん。じゃあ。」


通話を終えると、気は乗らないが編入生の元に向かう。

遠目からみてもボサボサの髪は目立つ。
しかもあの細川さんがちょっと困り顔だ。


「すいません細川さん。」

「大丈夫だよ、それでこの子が「お前スゲーキレイだな!!名前なんていうんだ!?」


普通の流れだと、俺と守衛である細川さんが会話をしてから編入生の確認に移る筈…だよね。違うのかな。いや、そんなわけ無い。
なんだってこのボサボサは細川さんの台詞に割って入ったのだろう。


「あ、あぁ、俺は瀬戸 悠です。よろしく。」

「悠な!!よろしく!!俺は永城 真央!真央ってよんでくれ!!」

「……よろしく、真央くん。」


彼は確か一年生のはず。
そして何故既に名前呼び?
更に何故そんなに声を張る…?

理事長と所縁ある人物だからと必死に心を宥めて、波風立たぬように決死の覚悟で愛想笑いを浮かべた。

俺って大人。愛想笑いなんて出来るようになったなんてすごい進歩だ。


「…そういう嘘臭い笑顔止めろよっ!!俺達友達だろ!?俺の前ではホントの悠でいろよ!!!!」


え、なんなんですか?人が折角気を使って愛想笑いを浮かべてあげたのに嘘臭い?ホントの悠でいろ?馬鹿なのか、馬鹿なんだろ。お前とは今日今この瞬間が初対面だぞ。愛想笑いじゃない笑顔なんか向けられるか。只でさえそんな容姿してるやつに??
というか友達ではない。
先輩だ。俺はお前の先輩。
 ※只今怒りのためキャラ崩壊しております。少々お待ち下さい。







「…理事長に案内します。……細川さん、失礼しました。」

「ちょっ悠!?なんで敬語なんだよ!!俺達友達だろ!?」

「貴方がホントの俺でいろって言ったんですよ。それに俺と君は友達ではないし、俺は君の先輩だ。君の方こそ敬語を使うべきだよ。」


※只今怒りのため以下略


なんか隣で喚いていた気がするけど完全無視を決め込んで理事長まで向かう。
怒鳴りながらも着いては来てるので問題はないだろう。


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