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【手の中のケータイ】
少し前まで穏やかだった生徒会室に悶々とした嫌な空気が流れている。
これは嫌な空気としか形容できない。
まるでどんよりと暗雲が立ち込めているかのように全員が全員浮かない顔をしている。
と言うのも一重に編入生のせいだ。
日が経つのは早いもので、編入予定は明日に迫っていた。
そしてつい昨日、編入生についての書類が回ってきた。
岸先生も今年生徒会顧問になりそして永城学園にとって異例の編入だけあり書類手続きが上手くいかなかったらしい。
まぁ、その点について責める人はいなかった。
問題は編入生のルックスだ。
あからさまにわざとだと分かるような野暮ったい黒髪。写真でも分かるほどボサボサで不潔感丸出し。
そのうえ流行りも遠の昔に廃れた瓶底眼鏡。
どうやら彼はこの学園に溶け込む気はないらしい。そして楽しい学園生活を送る気も同様。
年頃の学生は嫌でも外見を気に掛けるのが世の常だと思っていたのはどうやら間違いだったらしい。
だが、その派閥の方が多数派なのは火を見るより明らか。この学園に限らず、あの容姿で平穏に生活できる場所は 少なくとも日本の教育機関では有り得ない。
「何なんですか、コイツ。騒動起こす気満々じゃないですか…。」
がっくり項垂れた竹内に同意するようにため息を溢す。
理事長も理事長だ。
自分の学園がどんなもんだか分からないでも無いだろうに。
「理事長の甥っ子だと聞いてたから、もっと見れる顔かと思ってた。」
緋月も頭をかかえているし、ダメージが少なそうなのは篠崎と湊位だ。
「でもさぁ、変装とってみたら案外イケるかも…?」
「お前はポジティブでいいな。」
ニヤリと嫌らしく笑っている篠崎と疲れた顔の久我。
「一応口頭では風紀に連絡済だが、もう一度頼んだ方がいいか?…容姿が容姿だし、案内は瀬戸だろ?」
暗に いつ誰に見られてしまうか分からないし、見られたら生徒会ファンが制裁を始めるのは必死。
耳に入れておいた方が風紀も動きやすいのでは? という配慮だ。
それを分かっている面々は更に暗くなる。
しかも面倒事をお知らせされた風紀が笑顔で帰してくれる保証はない。
「俺がいくよ、久我。」
神妙に頷いた緋月に渋々立ち上がりかけた久我を制して、緋月の机に乗っていた詳細をファイルしてドアに向かう。
「風紀には友達いるし、多分俺なら平気…かも。」
他のメンバーが行ったら多分帰りは遅くなる。
根はいい久我と湊は罪悪感から風紀の仕事を手伝わされ兼ねないし、竹内は後輩だから圧倒的に立場が悪い上に風紀委員の友達をからかって時間ロスの可能性大。緋月と篠崎に至っては論外。永倉委員長と嫌味の言い合いになる事必至だ。
「僕も着いてってあげよっか?」
ニコニコと可愛らしい笑みを浮かべた篠崎。
だが腹の底は見え見え。
俺に篠崎が着いてくるメリット:楽しそうだから。
愉快犯ほど厄介なものはない。
「いい。篠崎邪魔するから。じゃ、」
いってくる は扉が閉まる音に掻き消された。ひどーい。という篠崎の声も…聞こえなかった方向で。
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