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【側になきゃと思ってた】








「で?やっぱり僕に緋月様から手紙がきたわけ?」



目の前に佇み、高慢な物言いをするこの人物にみおぼえなんて一切無かった。

湊に会えたので、順序を変え、先に湊に手紙を渡した。気を取り直して再びB組に向かおうとした時、いつの間にか見知らぬこの人物が俺の前に立はだかっていた。


正直に言うと、面倒臭い。
いくら昼休みが二時間あったとしても俺は既にお腹が空いているわけだし、あからさまに俺達二人を避けていく生徒たちの反応から(初対面でのこの絡みから)も分かるが、質の悪い相手なのだろう。この可愛らしい人物は。



「ほら、早く手紙出しなよ。」



笑顔で手を差し出すこの男は空気が全く読めていないに違いない。
俺が標準装備していた無表情は剥がれ落ち、困っている という思いを惜しみ無くさらけ出しているというのに尚も言い募り、ひたすらに迷惑。

というか…



「…名前、何?」



首を傾げながら名前を聞く。
俺もただのバカでは無いから緋月から預かった封筒にどんな内容の手紙が入っているのか予想がつく。だからこそ不用意に他人の目に晒すわけにはいかない。
だから、当たり前の事を聞いたまでだったのに、



「ちょ、僕を知らないの?!信じらんない!!」



俺は酷く相手を怒らせてしまったようだった。



「本当に知らないの?!」



甲高い声で詰め寄る相手に辟易するしかない俺。
更には距離を詰められて為す術無し。



「知ら、ない。」



俺よりもはるかに低い身長。可愛らしい顔。そして篠崎を彷彿させるような剣幕。
敵う筈がない。



「信じらんない!!信じらんない!!鈴木 圭って聞いたことないの!?」



未知の生物を見るような目で俺を睨む男子生徒。
鈴木 圭?一度も聞いたことない。話の流れからして、それがこの生徒の名前なのだろうか。



「え、と…ごめん、聞いたことはない。君の名前が鈴木 圭さんでいいのかな?」



愛想笑いを浮かべてみたものの、相手は怒り心頭のご様子。

…どうしたものだろう。

尋ねた事に対しての返答を戴けないまま俺への罵倒を止めない相手に、今まで驚きにより覆い隠されていた理不尽さが見え隠れしてきた。



「アンタ本当に何様!?どうせ媚売りまくってランクインしたくせにまんまと会長補佐にまでなって!!それでいて僕を知らない?調子に乗るのもいい加減にして!!」



初対面の相手に、なんで俺はここまで罵倒されなきゃいけないんだ?
それに言っている内容も理解できない。

媚売りまくって? 一体誰が誰に?
まんまと? 断ったのにやらされてる俺が?
しかも、調子に乗る? 意味を分かって喋っているのだろうか…。俺がいつどのタイミングで調子に乗ったのか事細かに教えて欲しい。


困惑する俺の表情をどう読み違えたのか知らないが、いい加減うんざりしている俺に意外な爆弾を投下した。



「藍沢様と翠様だけじゃ飽き足らずに篠崎様に涼輔先輩、更には緋月様にまで手を出すなんてどういうつもり!?!?」



この発言には、困り果てる を通り越し、最早石化した。




…手を出す………。


俺が、奈緒と翠に?
それに篠崎と涼輔先輩にまで?
ナイナイ。

奈緒は既に俺のお母さんの地位を獲得しているし、翠に至ってば歩く非常識゙という何とも不名誉なポジション。
篠崎は可愛い顔したイケメンだし、涼輔先輩には相手にされないし。
唯一否定できないのは緋月だが、手を出すなんて恐れ多くて出来ない。

目の前の相手は俺に対して大きな勘違いをしている様だった。


というか、この場で否定しなければ。
廊下で(こんなにも目立ってしまった状態で)あられもない噂を立てられるのは不愉快極まりない。

そう思い、口を開きかけると、いきなり後ろから頭に手を置かれた。



「お前ら、通行の邪魔。つか瀬戸、お前こんなとこで油売ってる暇あるのか?篠崎が笑顔で(遅いなぁ〜はるちゃん)ってぼやいてたぞ。」



声の主は緋月だが、今はそんな事に構ってられない。
実は格好いい篠崎が笑顔でぼやく=不機嫌。それって1ヶ月で発覚した篠崎の特徴じゃないか。
まずい。そういう時の篠崎は性格真っ黒な上に発言行動共に危険だ。
焦りながら緋月を見れば、いやらしく上がっている口角。



「いつもんトコ。」



焦るもののWhere is 篠崎.だった俺に気付いていたんだな。
そのくせ黙っていたんだな。

……相変わらず性格悪い

そうは思っても背に腹は変えられない。



「ありがとう。」



俺はそれだけを残して、生徒会室に走り出した。


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