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□カウントダウンは、始まっている
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恋が楽しいだけのものじゃないってことは洸希に教えてもらった。
痺れさえ甘い時もあれば死にそうな位痛烈な感情が雪崩れる時もある。


「どうして、」


なんで どうして また

また繰り返す。想いのリピートは間違いなく始まっている。
いつからかなんて分からない。なんでなのかも分からない。
重ねてるだけじゃないか?最近ずっと自分に問い掛けてる質問は答えすら変わらない。


「悪い、遅れた。」


控え目なインターホンの後、ドアを開ければ忘れたいのに忘れたくない彼が顔を出す。


「、気にしないでくれ。」


笑ったつもりが、あまり上手くいかなかったのが自分でもわかった。
怪訝そうにした常盤も、空気を読んでか何も言わずに座った。

呼び出したのは俺。
いい加減ハッキリしなければ本気で仕事に支障をきたす。


「なぁ、」


カフェオレの入ったカップを置いて、二人がけのソファを1つしか買わなかった事を後悔しながら隣合うようにソファに座る。俺は静まり返った空気を裂くように声を出した。
緩やかに上る湯気がどことなく穏やかで、早鐘を打ち始めた心臓を静めてくれた。


「お前が好き、とか言ったらどうする?」

「…なんだ、それ。」


意味が分からないと言うように顔をしかめた常盤に笑いかける。


「告白。」

「今日は4月1日じゃねぇよ。」

「、信じないわけ?」


自分よりずっと年下の男に軽くあしらわれている。

俺はもう大人で、何か1つのものを死に物狂いで追うことなんて出来なくて、いつも張り付かせている余裕そうな仮面は保険でしかない。
もし駄目だった時も、俺が俺であるための大事な部分が壊れてしまわないように、それはそれは輪をかけて隠す。


だから、笑う。


「深波、」

「悪い、でも本気。」


困ったように眉を寄せた常盤に笑いながら首を傾げてみる。
内心は不安だし泣きたいし、散々荒れ狂ってるのに このざま。


「深波、俺は」

「…駄目だったらハッキリ言ってくれよ?中途半端だと期待す――「深波。」


余裕が剥がされた気がした。
真っ直ぐ見詰めた目が心の最奥まで暴いて、散らかった中を見透かされる。
低くされた声が俺を責める。


「無理に笑うな。ちゃんとこっち見ろ、お前見せろよ。」

「ときわ、」


情けなく掠れた声が答えだった。


「好きに、なる、つもりなんて…ッ、」


そう。
好きになるつもりなんかなかった。

引き寄せられた体。抵抗なんてしなかった。そんなもの、意味もない。


「す、き…だ。」


会えたのだって偶然で、あんな出会い方で連絡先を交換できたなんて奇跡に近い。
ただ名前が洸希と同じだったから他の人より興味を持って―――あぁ、そうか…


落ち着かせるように背を擦られながら、思わず笑ってしまった。


「多分、お前が俺の手をとったあの日から、ずっと。」


顔を上げて、常盤の顔を見る。
手を伸ばして頬に触れれば、じんわりと体温がうつろう。


「ずっと『常盤香貴』が好きだ。」


振られるとか、駄目だった時とか、何も頭に浮かばなかった。
愛しい人が今、目の前にいて。
触れても許される距離にいて。

十分だと思った。



「―――あ゙ー!!もう無理!!」


いきなり叫んだ常盤は、未だに頬に手を添えたままの俺に口付けた。



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