t i t l e

□気付けばまた君の事を考えてる
1ページ/1ページ




洸希と再開してから1週間が過ぎた。
いい大人がみっともなく高校生にすがり付いてからも、同じく1週間過ぎた。

あれから俺は、機械みたいに決まった時間に起きて会社に行き、残業が無い限り同じ時間に帰る。
実に無感動な日常。
そしてそれと同時に、実に安定した日々だ。
誰に振り回される訳でもなく、酷く穏やかだ。心情以外は。


「黒川〜!」

「はい。」


部長は俺を呼ぶと、急に神妙な表情を作った。普段が明るい人だけに、なんだか異様な空気を醸していた。


「らしくないミス。何かあったか?」


丁寧に付箋が貼られた書類を返され、俺は項垂れるしかできなかった。


「すいません。直ぐに訂正します。」

「ちょい待て。」


私情のせいで仕事にまで支障をきたすなんて初めてだった。
期日の3日前に上げておいて良かったと思う反面、呼び止めた部長に首を傾げた。


「無理はすんなよ。お前、完璧主義みたいな所あるからな。」


もう一度頭を下げる。
期日前だし、のんびりやれ。という気遣う台詞に余計罪悪感か積もる。

俺はこの1週間おかしい。
おかしいのだ。

仕事のミスが増えたし、夜になると泣きたくなる。
今はまだ誰かに迷惑をかける結果になっていないとはいえ、いつそうなるか分からない。


――集中できない。


致命傷じゃないか。

ため息をついて、デスクに肘を付いた。


あの日からだ。
何でおかしくなったかは分かりきっていて、でも認められない。

だって俺は自分に誓ったのだ。
次は幸せな恋をすると。
こんな不毛な恋は二度としないと…したくないと。

――また繰り返すのか。

目蓋を閉じて、きつく言い聞かせる。
今なら間に合う。
引き返せる。
わざわざ自ら辛い思いをしにいく必要はないのだ。



辛い、思い…








気付けばまた君の事を考えてる







固く結んだ唇が、不意に緩んだ。


「ハ…ッ…。」


辛いのは、どっちだろう。

我慢して、目を背ける度に痛む胸か、繰り返す事か。

俺はもう、引き返せない所まで踏み込んでいるのかもしれなかった。


.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ