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□だってもう二年も前の話だよ
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冷えた体をじんわりと包む生温い暖房に、知らずに入っていた肩の力を抜いた。
今になって寒さを認識し出した脳に少し笑って、そんなに動揺していたのかと落ち込む。


「僕はココアにしよ。コウキは?」

「あー…カフェオレ。」


呑気にメニューを眺める彼らに昔の自分達を重ねた。
俺も洸希も甘いものが好きではなかった。学生の頃はカフェオレをよく飲んでいた。
社会に出てからは専らエスプレッソやアメリカン。
なんだか懐かしくなって見つめてしまった。勿論、香貴を。


「あんたは?」

「…カフェオレで。」


ちょっと迷ってから、久しぶりにカフェオレを頼むことにした。
どうせ今日限りの付き合いだ。
感傷に浸るくらい許されるだろう。
少しだけ、あの温かな時を思い出したってバチは当たらないはずだ。


「あ、そうだ。僕は中野和馬。で、これは常盤香貴。お兄さんは?」

「黒川深波です。」


注文を終えてから飲み物がくるまでの間に、漸く自己紹介。
だが、名前を言った瞬間に、二人の動きが止まった。
首を傾げるも、二人は動かない。

そして、ウェイターによって目の前に飲み物が置かれた頃、ようやく二人は顔を見合わせ、息もピッタリに俺に問いかけた。


「「黒川深波って…アノ黒川深波?」」

「……あの、?」


全く意味が分からずに聞き返せば中野和馬が興奮したようにキラキラと目を輝かせた。


「生徒会副会長で親衛隊規則の考案者で三年連続美人ランキング入賞&主席キープの偉業を成し遂げたアノ生ける伝説の黒川深波!?」

「いや…伝説……?」


確かに学生時代は生徒会副会長を務めたし、管理が杜撰で暴走し勝ちな親衛隊に規則を設けたりした。
主席キープは事実だが奇跡的に成せた事だし、下らない意味不明なランキングで表彰されもした。

しかし伝説ではなかった。


「星城学園の、卒業生ですか!?」

「…まぁ。」


躊躇いがちに肯定すれば、何かを叫ぼうとした中野の口を常盤が抑えた。


「俺ら、星城の生徒なんだよ。」

「は?」

「俺は生徒会長。コイツは書記。」


びっくりした。
だって余りにも偶然が重なりすぎていて。



洸希も、会長だったから。



カップに添えた手が震えて小さな音が立つ。
だけど店内の喧騒が些細な動揺を覆い隠す。


「じゃあ俺の後輩なんだ?」


緩やかに笑って、カフェオレを口にした。






だってもう二年も前の話だよ





どうして忘れることなど許さないとでも言うように、やっと落ち着いてきた気持ちに火を灯すように彼等と出会ったのだろう。

錯覚しそうになる。
忘れなくてもいいのかと。

期待する気持ちが消えない。

そんなもの、もう意味すら無いのに。


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