Short novel

□辛ク脆ク儚イ感情
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ふと、目が覚めた。
まだ夜明けなのだろう。窓から見える空は薄暗い。
正臣はゆっくりと体を起こす。隣から小さな寝息が聞こえた。
隣には愛しい恋人が眠りについている。正臣は優しい手つきで帝人の頬に触れる。
それがくすぐったいのか、帝人は身動いだ。そんな仕草すら愛おしい。

「………帝人」

帝人の傍にいることは正臣にとって安らぎであった。温かい帝人の笑顔を見るだけで心が癒された。
だけど、今の俺にはその笑顔を見ることは苦しみでもあった。
その笑顔を俺だけに向けてほしい。
いつからか、そんな風に思うようになってしまった。笑顔だけではない。
その姿も他人の目に晒したくない。その瞳に俺以外の全てのものを映してほしくない。
独占欲、その程度ものならば可愛いものだ。
歪みに歪んだ感情。ドロドロした感情が次々と溢れ出てくる。

「…っ帝人……帝人…っ!!」

圧し殺した声で何度も名前を呼ぶ。
頬に冷たい雫が伝った。いつの間にか、涙を流していた。
苦しい。今にも押し潰されてしまいそうだった。
帝人の前では心にこんな感情を隠していることなど感じさせないような態度で振る舞った。
だが、それもだんだん押さえきれなくなっていた。
帝人に手枷をはめて鎖を繋げ、誰の目にもつかないように閉じ込めて、あの躰に俺を刻み込んで、一生離れられないように―――

そんな風にまで考えてしまう。
いつか、この感情が押さえきれなくなって、帝人を壊してしまうのではないか。そんな恐怖が俺を襲う。
もう、狂ってしまいそうだった。いや、既に俺は狂ってしまっているのかもしれない。

「……ん……正、臣………」

突然、名前を呼ばれ正臣はびくりと肩を震わせる。帝人はすうすうと寝息をたて安心した表情で眠っていた。
ただの寝言か、と正臣は安堵した。正臣は横になり、そっと帝人を抱き締めた。
帝人の肌のぬくもりが伝わってくる。

「帝人……好きだ。
ずっとお前を愛してる…」

囁かれた言葉は直ぐに消えていった。
絶対に、傷付けたくない。やっと手に入れた大切な愛しい恋人。
俺の心の奥底にひそむ歪んだ感情などに壊させなどしない。
そう正臣は誓い、そっと帝人の頬に口付ける。

そして、愛しい恋人を腕の中に抱きながら、再び眠りについた。



辛ク脆ク儚イ感情




***
よくわからない正帝;;
タイトルは従姉妹に考えてもらいました^^*

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