Short novel

□ずっと、君に会いたかった
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※正臣がいなくなってからの数年後の話。
ダラーズ?黄巾賊??そんなもの知らないし←


























携帯のニュースで今日から桜が見頃と流れていて、何となく外に出てみたくなった。
今は四月。外は陽射しがぽかぽかとしていてコートが必要ないくらい暖かく、もう春なのだと実感させた。
時折吹いてくる優しい風が心地好い。帝人はよく彼と行っていた公園へ向かった。
正臣との思い出がある場所へと―――


***


正臣が居なくなってから、もう5年が経った。時間は止まることなく過ぎていき、あっという間に僕は高校を卒業した。
園原さんとともに大学に入り、それなりの日々を送っていた。だが、心にぽっかりと空いた穴は塞がらなかった。

理由なんて分かってる。

正臣が居ないから。

隣に彼がいない、それだけで世界はモノクロに見えた。正臣が居たときはあんなに輝いていたのに。
気付けば、目的地へと着いていた。

「久し振りだなぁ…ここに来るの……」

前はよく足を運んでいた場所。高校を卒業してからは大学が違う方向ということもあったせいか、まったく来ていなかったような気がする。
否、避けていたの方が正しいのかもしれない。ここには正臣との思い出がありすぎるから。
懐かしいと思う反面、彼がいない虚無感が沸き起こる。

だめだ、こんなんじゃ。
気を取り直し、帝人は公園内へと足を進めた。公園には美しく満開に咲いた桜の木が並んでいる。
風にそって花びらが流れてくる。
帝人は一番大きな桜の木の下のベンチに座った。
桜を眺めながら、園原さんも誘えばよかったなと思う。

……正臣ともこの桜が見たかったな。

いつか、きっと会える。そう信じ続けた。
勿論、今だって信じていないわけでもない。
…だけど、時が流れるのは早くて。
今、こうしている間にも、時間は止まることなく過ぎていく。
このまま、正臣と再会できることなく時が経ってしまうのではないか。
また会おうという約束も、ましてや会える確証すらないのだから。


――会いたい。会いたいよ正臣…


会って声が聞きたい。触れたい。――傍に、いたい。
君を想うと苦しくて苦しくて苦しくて。
でも、どうしても会いたくてたまらないんだ。
一筋の涙が帝人の頬を伝う。
それを自分の手で拭った。暗い気持ちになってちゃいけない。
そうだ、この桜を撮って園原さんに送ろう。そう思い、上着のポケットから携帯を取り出した。
立ち上がり、後ろにある大きな桜の木を画面に撮す。
カシャッという機械音が鳴り、美しい桜は画面の中に収められる。
うん、綺麗にとれた。
保存しようとした瞬間、強い突風が吹く。



「―――帝人」



少し低く優しい声音。僕が一番聞きたかった人の声。
後ろを振り向けばその容姿が目に入る。
本当、に…?

「……正、臣…なの…?」

「オイオイ、大事な恋人の顔を忘れちゃったのかー?この世でこんなビューティフルフェイスを持つ紀田正臣はこの俺だけだぞ!」


変わって、なかった。
背は少し高くなって、顔立ちも大人っぽくなっていたが、髪の色も雰囲気も軽い口調もまったく変わっていない。
帝人の瞳からはぼろぼろと大粒の涙が零れる。次々と溢れ出てくる涙がとまらない。
そんな帝人に正臣はそっと近付き、優しく抱き締めた。
会ったら絶対に言おうと思っていたことがたくさんあったのに、今は何一つ思い付かなくて。
だけど、僕を包む腕の温かさが夢ではなく現実だと教えてくれた。

「…待たせて、ごめん」
「……ほんとだよ。遅いよ、ばかおみ…」
「ははっ、酷ぇな。
…待っててくれてありがとな、帝人」
「…もう、どこにも行かないでね」
「あぁ、これからはずっと傍にいるから」
「………おかえり、正臣」


「…ただいま」


ずっと、君に逢いたかった

(お願い、もう離さないで)

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