噂の彼女と彼と3人で、遊園地―トロピカルランド―に来ているわけなんだけど、新一が数分前にどこかへ行ってしまってから姿を現さないので、蘭がイライラしている。 ほら、彼女は彼が好きだからね。折角のデートなのに(私も居るわけだけど……)、肝心の相手が居ないのは不満なのだろう。当たり前か。 「ったく、あいつどこに行ったのよ〜ッ」 「まあまあ。その内帰ってくるよ」 「そうかしら……って、ひゃっ!?」 「そうそう………、っ!?」 苦笑を交えつつ蘭を宥めていたら、納得してくれたらしい蘭。その刹那、彼女が悲鳴をあげるのと私が声にならない悲鳴をあげるのは、ほぼ同時だったと思う。 背後から現れたのは、彼女が先程から恋焦がれていた彼だった。どうやら、冷えたジュースの缶を、頬に当てられたらしい。どうりで背筋が冷えたわけだ。 「すっごーい!」 「どうだ?ここの噴水、」 「へえ……(まあ、私まで連れてこられた意味はあるのだろうか)」 噴水について説明する新一の言葉を受け流しながら、場違いな自分の立ち位置に迷う。 3人で居るのは楽しいし、これ以上ない幸福感を感じる。依存していると言っても構わない。 けれど、こんな風にラブラブイチャイチャしている、幼馴染という名のバカップルを目の前にして、私はどうしたらいいのか分からない。 何というか……、先程言ったように、場違いなんじゃないか。だとしたら、空気になろう、空気に。 「(って、あれ?梓斗?居ない!)」 「(あの黒ずくめの奴ら……怪しいな)――――じゃあ、目暮警部。今から説明しますんで」 「ま、待って新一!梓斗が居ないの!」 「はあ?そこに―――いねぇ……」 すっかり忘れられているのと、時間が進み過ぎたのは私の落ち度と言ったところかな。 ちなみに、ジェットコースターで殺人事件が起こったらしい。―――私は乗ってないし(絶叫系は無理)、何だか人が集まってきたから、野次馬に紛れ込んでみたんだけど、どうやら彼女と彼は私に気付いていないらしい。少しショックだよ。 というか、あの黒ずくめは怪しいよね。何であんながたいの良い奴らがジェットコースターに乗ってるのかは、謎だけど。 ……あの長身の方、髪が長くて綺麗だとは思う。長髪=彼女と結びつけてしまうのは、私の悪い癖だけど。 新一がすぐ事件を解決してくれたらしく、一件落着。黒ずくめの男達は、犯人では無かったらしい。(あんなに怪しいのにね) まあ、空気になることを選んだ私は(折角のデートだしね)、ブラブラと遊園地内を歩いていた。携帯にはメールやら着信やらがあったから、一応電話をかけておいた。(後で怖いからね)まあ結局怒られたけど。 夕方になり、そろそろ帰ろうかとしていると、誰かが走っていくのが見えた。それが彼によく似ていたため、走って腕を掴んでしまった。人違いだったら申し訳ない! 「新一……?」 「! 梓斗か。わりぃけど、蘭と一緒に帰ってくれねぇか?」 「? 君、蘭を置いていくのかい?……というか、」 思わず、強い口調で言ってしまった。(あと睨んでしまった) 自然と眉間に皺が寄ってしまう。―――分かっている、彼は急いでいるということに。そして、何か重要なことのためにそうしていることを。勘、だけど。 けれど、あんなに今日を楽しみにしていた彼女を置いて、どこかへ行く彼に腹を立ててしまった。 「わりぃ……っ」 「!」 ぎゅっと、力強く抱きしめられてしまい、それ以上言葉を続けられなかった。 ―――私は、結局何も出来ないんだね。君のためにも、彼女のためにも。 そのまま、走り去る彼の背中を見つめることしか出来なかった。 トロピカルランド 心配なのは、彼の安否と、彼女の心。 2011.08.15 |