三つ巴!

□昔のことをぼんやりと考えてみる
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おはようと言えばおはようと返される。それらが当たり前の、日常的な習慣になるまでに時間はかからなかった。
彼らに出会ってから、私の中の時間は急激な速さで流れていった。どんなに会っても、どんなに話しても足りない。彼らと一緒に過ごす時間は、特別な時間になっていた。だから、時間が過ぎるのも早く感じた。1日が24時間以上あればいいな、なんて毎日思っていた。
初めて会った時から、彼らには何か特別な何かを感じていた。一目惚れのようなものだった。全身を駆け巡る小さな電流のような刺激。時が止まったかと思ったら、ぐるぐると同じ所を巡っているような、不思議な感覚。
何とも言えなかった。それくらい、それくらいに魅力的に思えたんだろう。

そして今現在、私たちは高校2年生になった。
同じ小学校、同じ中学校、同じ高校に進むごとに、年を重ねるごとに、速さが増す。これでもかというくらいに、アクセルを踏んでいるような、ブレーキが壊れたような、そんな速さ。少しだけびくついてしまう。
勿論、ずっと彼らと同じだったわけではない。転校して、また戻ってくるという奇妙なことをしたりしていた。それも2回、同じ学校へ行き、またここに戻ってきた。
転校した理由は、親の仕事の都合だったのだけれど、どうしても私が駄々をこねた所為か、戻ってきた。それが2回繰り返されたというわけだ。

彼らと離れると、どうしようもないくらいに時間が遅く進む。まるでハイパースローモーションカメラのように。
何を話しているのか、何をしようとしているのか、何をしなくてはいけないのか、全く理解出来なかった。
キラキラとした楽園から、ドロドロとした地獄へ堕とされたかのように。
私の中の全てが、全身全霊で拒絶していた。
転校したのは、小学4年生の時と、中学1年生の時。どちらとも1学期すれば戻ってきた。
親も驚いたことだろう。あんなに自分の娘が、たかだか最近できた友達に対して信じられないくらいの執着心を持っていることに。
自分自身、驚いている。



「何考えてるのよ?」
「ああ、蘭。おはよう」



彼らに初めて出会ったのは、小学1年生の夏頃。
どうやら彼女――蘭――と、新一は幼馴染で仲が良いらしく、いつも一緒にいた。
隣のクラスだったからあまり関わっていなかったけれど、噂や遠目から見て知っていた。それに、どうやら私と彼は顔が似ているらしく、度々彼の友達から声をかけられたりしていた。
その蘭が、小1の夏休み前だったか夏休み中だったか、1人で何かを探していた。暑くて、蝉の1匹が主張するように大声で鳴いていて、汗が首筋を伝うような、そんな日。
ジリジリと太陽に照らされながら、1人で必死に何かを探していた。後から聞けば、落し物―お気に入りのハンカチ―を探していたらしい。そんな彼女が不憫に思え、声をかけた。「ねえ、何を探してるの?」と。

すると彼女は顔を上げ、驚いた表情になると、少しだけ泣きそうな顔になって、こちらに駆けてきた。そして、私の服の裾をぎゅっと掴んで、すがるように言った。「しんいち、おねがい、たすけて、ないの、どこさがしても、ないの」
“しんいち”という人物ではないよと言いたかったが、喉の奥が張り付いて言えなかった。顔が似てても、髪の毛の色や声が違うから、気付いてもいい筈なのに、みな気付いてくれないのはどうしてなのだろうか。などとぼんやり考えつつ、この子は驚きと焦りと不安でそんなこと考えられないんだろうなと思い、安心させるように頭を優しく撫でた。



「で、どうしたのよ、ぼんやりしちゃって」
「昔のこと、思い出してたんだよ」



大丈夫。一緒に探すから見つかるよ。
そんな言葉をかけたんだと思う。そして、あの日の照って暑い中、ただひたすらに1つのハンカチを探していた。
日も暮れだした時に、ようやく探し物が見つかった。そして、心配して来た彼も現れることとなる。
彼女は「新一が2人いる!」とパニックになったが、私の髪の色と髪型、そして何より左耳のピアスのことを教え、別人だと分からせた。このピアスは物心ついた時からある。決して自分で開けたわけではない。
そして、彼から名前を訊かれ、名乗る。―――そこから全てが始まった。
カチリ。ピースが合う音がする。ここの町に生まれ、帝丹小学校に通い、別クラスだったけれどこの探し物事件の時に蘭と出会い、新一と出会った。
私のような奴を、幸せ者と言うのだろう。



「昔?」
「蘭や新一と初めて出会った時のこと、とか」
「ああ、あれはビックリしたわよー、新一が2人いるんだもん!」



クスクスと蘭と笑い合えば、心がふわりと温かくなる。
風が吹き、彼女の長く綺麗な髪と、私の―彼女に憧れて伸ばした―長い髪がなびく。
ふわりふわりと流されて、焦げ茶と色素の薄い金に近い茶髪が交わる。
そして彼もやってくるんだろう。遅れてやってくるんだろう。わり、遅れた!なんて言って走ってくるんだろう。
ほら、来た。







昔のことをぼんやりと考えてみる

2011.05.22
 

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