愛されて愛されて。

□愛されて愛されて。15
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セルティは珍しく怒っていた。
赤い赤い熱が渦巻いて燃え滾るような感覚を、血液が噴出しそうな感覚を、何故だか感じていた。
そんなもの有るわけが無いのにも関わらず。

新羅や葵や静雄から、メール或いは直接と相談を受けていた。
だから、セルティはその場には居なかったが、ある程度個人の心情も踏まえつつ理解していた。
つまり、単純な話、三角関係かと思いきや五角関係―――いや、六角関係になっていたのだ。

そして、臨也が手を出してしまった。

――臨也の奴、やはり手を出したか……。いや、私が怒っているのはそこじゃないんだ。

確かに怒っている理由のひとつでもある。が、しかし。それだけではなかった。
セルティは思う。何故、椎名の事を好いている人間が、彼女を困らせているのか。
人間の考え方や価値観など解らないが、好きな人には笑っていて欲しいんじゃないだろうか。

――それは私だけの考えかもしれない。だけど、皆葵を困らせ過ぎだッ!

このままだと、何時か見た昼ドラの様にドロドロと気まずい空気のまま過ごす事になってしまう。
そして何時の間にか争奪戦なんて事になって、葵が傷ついてしまうかもしれない。
セルティは怒りと焦りを覚えつつ、これからの事について思案していた。

――まずはこの状況を打破しなければいけない。落ち着かせなければ……。

そして、セルティは先刻相談を受けた三人に、ある事を頼んだ。




♂♀




翌日昼・学校屋上。

「ねえ、君がこんな所に居てもいいのか?」
『問題無い。誰にも見られない様にしておいた』
「ふうん……?」

新羅は臨也を、静雄は京平を、セルティは葵を屋上に呼び出し、五人の人間と一人の首無し騎士が集まっていた。

突然の呼び出しに驚く者や訝しがる者、セルティの姿を見て不思議の思う者や、この状況に不安がる者など、様々な表情を浮かべていた。
そして、セルティは単純明快に言葉を出した。PDAに自分の想いをのせて―――。

『葵を困らせる事はしないで欲しい』

その言葉にピクリと反応する者が一人。―――臨也だった。
当の葵はと言うと、焦った様にセルティを見つめ、どうすればいいか解っていない様子だ。
臨也はニコリと笑い、セルティを見る。その目は全く笑っていなかった。

「さしずめ新羅から相談されたんだろうけど。君に関係有るの?それに―――君に言われる筋合いは無いんだよねぇ」
『関係は有る。それに、これは臨也だけじゃない。他の奴等にも言っている事だ』

セルティは素早くPDAに書き込んだ後、ぐるりと全員の顔を見る。
別に挑発したいわけでは無かった。別に皆の価値観を否定したいわけでは無かった。
ただ、好きな子が困っているのを見たら、どうしようもない物が自分の中であふれ出てきたから―――。

――私には首が無い。だから、喋る事も出来ない。
――けれど、伝えたい事がある。伝わって欲しいという気持ちがある。
――お願いだ、解ってくれ。

『好きな奴に振り向いて欲しい気持ちも解る』
「君でも解るんだ」
「臨也、黙っててくれないか」
「……」
『……確かに臨也の言う気持ちも解らないでは無い。だけど、私も葵が好きなんだ。今はまだ、恋愛感情かなんて解らないけど』
「セルティ…」

ふと漏らした言葉の主は葵で、頬を少し蒸気させつつ、だが瞳は不安の色が残っていた。
大丈夫。そう語りかける様に、ゆっくりと頷いた後、またPDAに指を這わせる。

『皆が葵に恋してるなんて見てて直ぐ解るよ。だから、必死になってるんだろ。だけどな、葵はその状況についていけていないと思うんだ』
『だから、焦らないでいい。これから色んな奴と出会う中で、色んな事を感じるだろう。だからここは―――葵が相手を決めるまでは困らせないという事で手を打たないか?』

困らせないという事は、手を出すなという暗黙の言葉だった。
徐々にセルティが必死になっていくのを見て、新羅は吹き出す。アハハと笑う声につられて、京平や静雄も笑う。
一方、セルティとしては真剣に述べているのにどうして笑うんだ、という気分だ。

「いいと思うよ、それ。そうする事で余裕を持てるだろうしね」
「ああ……。何処の誰かは知らないけれど、それでいいと思う」
「セルティ、有難う」

皆が納得していく中で、セルティはぼんやりと一人の笑顔に酔いしれていた。
葵の笑顔を見て、セルティはじわりと胸の辺りで熱くなるのを感じた。
今まで感じた事の無い、この熱さ。怒りではない、怒りはもう納まっている。

――これは一体……。

セルティが、それを恋だと知るのはもう少し後の事。





好きな奴が困っているのにお前らはッ!

10.07.17
訂正:11.09.27
 

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