愛されて愛されて。

□愛されて愛されて。12
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――こんなに独占したいなんて思ったのは初めてだよ。
――特定の人物を好きになるなんて、ましてや愛すなんて事無いと思っていた。否、有り得なかった。
――そう思っていたのは…高校入学前までかな。葵と出会って、あたしは変わったよ。


時計の針の音が響く。カチカチと、時を刻む。妙に進む音が遅い気がするのは、この場が嫌だからだろうか。
未だに抱きしめられている俺だが、臨也が肩の所に顔を埋めている為、表情が読み取れないでいた。
首筋に吐息がかかって、くすぐったいから離れて欲しいんだけど、そんな事言える雰囲気では無い。
彼女…というか、折原臨也という人物はこれほどまでに特定の人物に興味を持った事はあっただろうか。
無い。絶対に無い。だったら何で。何で俺に執着を見せる?

まるで、好きな人をとられないように独占する男のように―――。

……好きな人…?あれ、俺何言ってるんだ。まさか、いや…お気に入りなだけだ。
臨也が“特定の人物”を好きになる事なんて、有り得ないのだから。


「臨也、離しなよ。葵が困っているだろう?」
「新羅に分かるわけないでしょ。葵は困ってるなんて言ってないし」
「言えないんだよ。彼女は優しいからね。嫉妬は醜いよ?」
「五月蝿いなあ…。だったら何だって言うのさ」


ピリピリと肌を刺すような殺気が行きかう。間に居る俺にとっては辛い事で。
殺気慣れなんて、当たり前だがしてない。まあ確かに、他の世界へ行った時戦場だったとかは有るけど、やはり慣れない。
というか、特に臨也の殺気が痛過ぎるんですが。身体密着しているから、ピリピリ通り越してビリビリしてるんだけど…!
苦しい、苦しい、痛い。これ、精神的にくるかもしれない。


「俺は葵が好きだ。誰にも渡したくない」


不安定な心と身体で、ふとクリアに聞こえたその言葉は、臨也のもので。
顔を上げると、何時の間にか臨也は顔を上げて新羅に視線を向けていた。
目が合うと、その深い紅に吸い込まれそうになった。何時だってその紅に魅せられる。
吸い込まれ……て…いって……。呑み込まれた。

唇に柔らかく温かい感触。思わず目を瞑ると、もう一度それがくる。
目をゆっくりと開けると、目の前には臨也が視界一杯に広がっていて、キスされたんだと察する。
臨也の頬が少し赤らんでいるのを見て、俺も顔が赤くなる。
後ろで新羅が何か言っているのをBGMに、俺はまた臨也に軽く口付けられる。




誰にも渡したくない。

10.05.17
 

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