愛されて愛されて。

□愛されて愛されて。11
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「君って…ドジだったんだねぇ」

これはかなり屈辱的な言葉だった。
だったら直せと言われるかもしれないが、何故か俺は直せなかった。というか、最近妙にこけてしまう。極最近だ。
以前まではこんな事は無かった筈なのに。溜息を吐くと、臨也がまた苦笑する。そして、また同じ事を言うのだ。「幸せが逃げるよ?」と。
逃がしているのは君の所為でもあるんだけど…。視線で訴えると何を思ったか、そのか細い腕で俺を持ち上げる。そしてそのまま横抱きにされる。
どこからそんな力が出てるんだ…っ!というか、俺は立って歩ける!自分で、あ、る、け…るっ!




♂♀




息を上げずに歩ききった臨也は強者である。そう悟った葵は、苦笑した。
足でガンッと保健室の扉を蹴ると、中から穏やかに出て来たのは、制服の上から白衣を羽織った新羅だった。
パチクリと目を瞬かせる葵に気付か無いのか、臨也と新羅は話を進め、患部をまじまじと見つめる。
そして、「これ、前の傷の上に出来てるじゃないか。…ああ、一応ガーゼを貼っていたんだね、偉いよ。そのままだったら、葵の左膝は血で染まっていただろうね」と話す。
そんな痛々しい事言わないで欲しいんだけど、と軽く溜息を吐くと、またもや臨也に「幸せが逃げるよ」と制される。
だからお前らの所為だろ、と心の中で毒づいた。


「はーい、沁みるよー」
「いったぁっ!?」
「沁みるって言ったじゃないか」
「痛がる葵も可愛いよ」「僕もそう思うよ」
「……なんか微妙なんですけど」


痛がっている顔が良いって意味だろう。ああ、なんてドS!なんてドSなんだ!

言っとくけど、俺はMじゃないからなっ!?ドF!普通って事だからなっ!?
(あー、はいはい。葵はMね)
ちがっ!(でも、相性良いじゃない)
ちょ(ああ、分かってるよ。俺と、だろう?)
は(馬鹿だなあ、臨也。僕とだよ)
え?あ、てか治療済んでる…。新羅、器用だね!凄く綺麗だよ!

照れたように笑う新羅に、微笑み返す葵を見て、臨也は不機嫌になる。
不機嫌に殺気が混ざって、負のオーラが渦巻いており、よって部屋の温度が下がる。
このピリピリとジトジトとしたオーラをしまって頂きたい。そう願う葵は何も分かっていない。鈍感である。
それを新羅も臨也も、他の者も知っている。今この場に居る新羅は、それを利用している。
それが分かっているから、臨也はもっと腹立たしく思った。小さく舌打ちをした後、葵を思い切り抱きしめた。
予想外の行動に、三人は驚愕の表情を浮かべる。そう、三人が。何故行動した臨也までなのかと言うと、臨也自身自分が何故こんな行動をしたのか分かっていないからだ。
それでも、身体は葵を閉じ込めて離さない。それは、心だってそうだった。




閉じ込めたいって思うんだ

10.05.17
 

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