愛されて愛されて。

□愛されて愛されて。09
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――この止まらない鼓動を、どうしたら良いんですか?
――僕は、もう、死んでしまいそうです。

未だに離れない俺。シズちゃんも離れようとはせず、抵抗を見せない。
よって、女子高生二人が公園の端のベンチで抱き合っているという、妙に可笑しい状況になってしまっているわけだ。
それでも、俺らは離れない。ぎゅっと、逃がさないように締め付け、互いの存在を感じ合う。

寂しいのか。愛おしいのか。それとも、また別の何かか。
先程の、愛おしくて抱きしめた時とは違った感情が混ざり始めた俺の心。
でも、それが何なのかは分からないままで。だから、どう対処して良いのか分からなくて。でも、だからこそ、そのままで居たくて。

「葵っ、は、離して、く、れ…っ、」
「………」
「…っ?葵、?」
「あ、え、ああ、ごめん!嫌だったよね、」

――違う。俺は、俺は……。君が好きで、好き過ぎて、困るんだ。
――心臓が、早鐘打って、尋常じゃないくらい、速く。速く。速く。
――このまま、急に止まってしまうんじゃないかって、思って。それでも君に抱きしめてもらっていたくて。

――でも、死にそうだった。近いのに、届かないこの物悲しさが、苦しくて、苦しくて。胸が痛くて、息が出来なくなる。

「ち、がう。ちょ、ちょっと……、」
「ん?」
「……なんでもない」

――届かない思いがあるように。届く思いだってある。だとしたら、俺のこの思いは、何時かは届くのだろか。
――でも、俺はただの人じゃない。この、化物のような力は……人を傷つける。ああ、何時か、この手で、君、を、傷つける。

「っ、……ぁ、」
「シズちゃん…?」
「…ぇ、」
「、泣かないで」

小さく言葉を漏らしたかと思ったら、シズちゃんの、その頬に伝う一筋の線。シズちゃんは、泣いていた。
何が彼女に涙を与えたのかは知らないし、分からないが、彼女が酷く悲しそうに寂しそうに顔を歪ませていたから。まるで、絶望したかのように。
だから、俺は、彼女を笑顔にしたかった。滅多に見れない笑顔にしたかった。
彼女には、寂しい思いなんて、絶対にさせたくないと思った。何故か、その使命感に駆られてしまった。

「御呪い」

そう言って、俺はシズちゃんの瞼にキスを落とす。その後、手で涙を拭ってやる。
シズちゃんは、きょとんとしてから、小さく笑う。少し、頬を朱色に染めながら。

「…ありがと、な」

ぎこちなく、そう礼を言う彼女は、何処か先程よりスッキリしたような顔だった。
泣いた理由は追求しないが、何かスッキリしたみたいだね、と伺うと、彼女は「葵の呪いの御蔭だ」と笑って言ってくれた。
彼女の為に何か出来たなら、もう俺はそれで言い。それだけで、満足だから。

そして、夕日は沈み、夜の闇に染まる。






10.04.16
 

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