愛されて愛されて。

□愛されて愛されて。08
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「………」
「……えっと、シズちゃん?」
「………」
「………。なんで不機嫌なの!?」

可笑しい。何故、俺達はこんなやり取りをしなくてはいけないんだ。
新羅宅へお邪魔して、残りのゴールデンウィークはどうしようかと思って、臨也宅へもお邪魔しようとした。だけど、あっけなく断られた。
まるで、何かを隠しているように。余所余所しい感じで断られた。
新羅宅にまた行くのも良かったけれど、なんだかデジャヴになりそうな気がして、止めといた。

そして、今日を含めて後二日で終わろうとした時。夕方の十八時。近所のコンビニエンスストアで、見知った金髪を見つけた。
それは、言わずとも、シズちゃんだった。

笑顔で近づき、話しかけると、シズちゃんは優しく微笑んだ。……かと思うと、何かに気付いたような顔をしてから、スタスタと俺の横を通り過ぎて行く。
俺がそれを追うと、レジで会計を済ませ、何事も無かったかのように出口へ向かう。彼女以外が、ピントがずれたようにぼやけて見えた。

「ちょ、シズちゃんっ!」
「…っ、んだよ、」
「んだよ、じゃなくて。なんで急に黙って帰るわけ?」

すると、シズちゃんは少し眉間に皺を寄せてから、そっぽを向く。いつものシズちゃんらしくない。
と言っても、俺は指で数えられる程度しか会った事が無いし、話した事が無い。もっと言えば、今日で二回目なんじゃないか、とか思い出してみる。

そして、無言で公園へ行くシズちゃんを追いかけ、シズちゃんがベンチに腰掛けたのを見てから、隣へ腰掛ける。
そして、冒頭へ戻る。

「……葵は、新羅の家に行ったんだろ」
「うん。……って、なんで知ってるの?新羅が言ったの?」
「まあな。しかも、ノミ蟲も一緒だったって言うじゃねぇか」

…ノミ蟲?ああ、もしかしたら…、いや、確実に臨也の事だ。そう呼ぶという事は、既に二人は会っているという事になるのか。
新羅から聞いた。そして、通称ノミ蟲の臨也も一緒だということも、新羅から聞いた。
つまりはこういう事になるわけだ。シズちゃんと臨也は、新羅繋がりで会っている。それが何時かは分からないが、確実にこのゴールデンウィークより前だろう。
だったら、何故不機嫌かが分かる気もする。自分が嫌っている人物と知り合いが仲良くしているのは、気に食わない。そんなところかな。

「臨也が――」
「その名前を呼ぶんじゃねぇ!!………悪い。頼むから、名前出さないでくれ」
「…うん、ごめん。それで、シズちゃんは、彼女の事が嫌いだから、俺と仲良くしてるのが気に食わないのかな?」

――それもある。それもあるが、もう何個かあるんだよ。
――もう直ぐ終わるっていうゴールデンウィークで、俺と一回も遊ぼうとしなかった事。
――そして、変態の家にホイホイ遊びに行った事。それが、嫌なんだ。それが、俺を不機嫌にさせている。

不機嫌なシズちゃんは、噛まない冷静なシズちゃんだった。嫌なくらい、男版の平和島静雄と重なる。
元々、面影が有り過ぎる人達だから、ふと、本人と同じ雰囲気になられると困る。
重ねて、比べてしまう。どちらがどうなのか分からなくなる。曖昧になって、闇に飲まれる。
そうすると、どちらも本人なのに、どちらかが本物だと思おうとする自分に自己嫌悪して、消えたくなる。
この世界から、逃げたくなる。

「…俺は…、」
「――ん?」
「お、俺は、………お前が遊びに誘ってくれないから、その…、」
「……」
「……っ、嫌だったんだよっ!!」

最後は赤面状態になりながら、自分の気持ちを叫び吐き出すシズちゃん。
そんなシズちゃんを見て、数回瞬いた後、俺はへらりと笑い、シズちゃんを抱きしめる。
シズちゃんが自分の気持ちを言ってくれて、俺の事で不機嫌になったり赤面したりして。
そんなシズちゃんが、どうしようもなく愛おしくなった。

細く、けれどしっかりとした柔らかい体は温かく、ふわりとシズちゃんの匂いが直ぐ近くでした。
ああ、生きているんだなあ。そう感じる事が出来る、心音。
シズちゃんの心音は、正常な人の速さより、少しどころでは無く、異常に速かった。
けれど、そのドクドクと速い音も、心地良かった。






10.04.15
 

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