愛されて愛されて。

□愛されて愛されて。07
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「こんにちは。葵、凄く似合ってる!可愛いよ!世界中の何処を探しても、葵に勝る奴なんて居ないよ!ああ、私はなんて幸せなんだろう!俺の家に葵が来てくれるなんて思うと、もう興奮してしま―――ゴフッ」
「新羅、だから調子に乗るなって」

饒舌に話す新羅の鳩尾を殴り、黙らせる臨也。視線が鋭いことから、少し苛々していることが覗える。
あまり臨也を怒らせないようにしないと……。後々が怖いからなぁ…。

「どうぞ、どうぞ!お入り下さーい!―――セルティー!昨日言った、葵が来たよー!………あと、臨也も」
「ははっ……。後で覚えてなよ、新羅」
「………ひっ、」

臨也の笑みを見て、新羅は怯む。臨也の笑みは、目が笑っていないのだ。
その鋭い瞳を、更に厳しくさせ、深い赤で新羅を射抜く。射抜く。射抜く。
新羅は耐え切れず、逃げるように家の中へ入っていく。それを、ゆっくりとした足取りで追う臨也と俺。

「…広いね…。てか、凄い所に住んでるんだね、新羅」
「気に入った?だったら、これからも遊びに来れば良いよ!それに、広いから泊まれるし。ていうか、泊まってくれないかなっ!?それよりもやっぱり一緒に住む方が良いよねっ!ああ、良い…素晴らしいよ…っ、」

新羅が恍惚の表情を浮かべ、まだ喋ろうとしているその口を、黒い何かが塞いだ。
ゆっくりとその黒い何かの先を辿ると、黄色い猫のヘルメットを被った、黒いライダースーツに身を包んだ女性が居た。
言わずとも、セルティ・ストゥルルソンである。
つまり、この黒い何かは、セルティが出した影なんだろうけれど、こんな簡単に他人に見せて良いものなんだろうか?

「もごっ、もごごごっ、もごごぉー!」
『新羅、静かにしてくれ。…えっと、初めまして。私はセルティ・ストゥルルソンって言います』
「初めまして」

新羅がもがき暴れ、何かを訴えようとしているが、塞がれているため、何を喋っているか理解出来ない。
そんな新羅にPDAを見せ、静かにさせてから、私にもそのPDAを見せて挨拶をする。
打つスピードの速さといったら、もう凄い凄い!目にもとまらぬ速さってやつ?

『貴女のことはよく新羅から聞いて知っている。椎名葵ちゃんで合ってるよね?』
「あ、はい。名前で呼んで構いませんから」
『ありがとう!ああ、私も名前呼びで良いよ。あと、敬語使わなくて良いし』
「…セルティ」
『なんだ?』

小さく呟いた声も拾い、セルティは素早くPDAに文字を打ち込み、俺に見せる。
その言葉を一瞥してから、セルティを見つめ、へらりと笑う。間抜けな笑顔だけど、思わずそんな笑顔になってしまった。

「へへ…。呼んでみただけー」

セルティに未だへらりとした笑顔を向けていると、セルティがぽろりとPDAを落とす。
すると、重力に従い、そのまま床とぶつかる。カツンッ!と軽いような重いような音が鳴り、PDAは仰向けのまま倒れる。
やけにその場が静かなような気がした。

「セルティ…?P、PDA、落ちた――」
「なんて可愛いんだ、葵は!ああ、もうその笑顔っ!初めて見るよっ!」
「……アハハ。…やっぱり可愛いね、葵は。その、ちょっと間抜けな笑顔も可愛く見えるなんて、葵だけだと思うよ」

臨也、褒めているのか貶しているのか分からないんだけど…。そして、なんで始めニヤって笑ったのかな?
俺、最近臨也が分からなくなる時があるんだけど。多分、彼女は私に対して、素を四割も出していないのだろうけれど。

ふと、セルティが全く動いていないのに気が付く。まるで、絵のように一ミリも動いていない。
心配になり、声を掛けると、再び息を吹き返したかのように、わたわたと動き出すセルティ。
そして、影を操りPDAを拾い、先程の非では無い程の速さで打ち込む。そしてそれを、バッ!という効果音が出そうな勢いで俺に見せる。

『か、か、可愛い!可愛いよ、葵!わ、私、新羅から凄く可愛くて格好良い子だって聞いてたんだけど、聞いてた以上の子だから、その……っ。思わず、フリーズしてしまったんだ!そういう笑顔だと、可愛いんだなっ!私、普通の時も格好良くて良いと思うけど、その笑顔も可愛くて好きだよ!』

長文に驚いたけれど、ゆっくりと、丁寧にそれを黙読してから、セルティにありがとう、と言う。
すると、セルティは照れたように、ごめん興奮してしまって…、と謝るる。
でも、褒められて悪い気はしなかったし、何よりセルティが可愛かったから、別に良いよ、と言って、また笑う。






「(俺の前では意外に、そういう顔もしてくれたりするんだよねぇ…)」

10.04.13
 

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