愛されて愛されて。

□愛されて愛されて。05
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淡い四月も去ろうとした頃、また臨也から知り合いを紹介すると言われ、屋上へ連れられて来た。
しかし、未だにシズちゃんを紹介されていない。…もしかしたら、臨也は新羅からまだ紹介されていないのかもしれない。
それしか思い浮かばない。今現在、大喧嘩をしたという情報は聞いていない。つまり、お互いを知らないということだろう。

この軋む屋上の扉も、もう慣れてしまった。慣れた手付きで、扉を少々荒く開ける臨也。
そして、中には新羅ともう一人、女子生徒が居た。臨也と同じで、セーラー服を着ている。前髪をオールバックにしていた。
って、これはもしかして………。

「ドタチン」
「門田だっ。……っと、アンタは…」
「椎名葵です。えっと…、門田、さん?」
「門田京平だ。好きに呼んでくれて構わないから」

優しく微笑む京平は、美人だと思った。そして、また思う。俺の周りは美形ばかりじゃないか!?
平凡な顔の俺が、どんどん惨めになっていく気がしてならない。否、惨めになっているんだけれど。

「じゃあ、京平って呼ぶよ」
「ああ…」
「えー。ドタチンって呼べば良いのにー」
「馬鹿か!」

ドタチンというあだ名がそうとう嫌らしく、眉間に皺を寄せ、臨也を睨む京平。
それを見て、新羅が苦笑する。彼女は、大抵傍観している。きっと、巻き込まれたく無いのだろう。
そういう俺も、だけど。

「あ、言っとくけど、」
「は?」
「葵は、俺のだから」

ふと、何かを思い出したようにしてから、京平にそう宣言する臨也。
一人称が俺になって、ますます臨也に見えてくる……って、そうじゃなくて!
今、「俺は臨也の物です」宣言されなかった!?可笑しいだろ、可笑し過ぎるだろっ!
……まあ、玩具扱いならそれであっているんだろうけれど。ああ、こんなので納得してる俺は一体なんなんだろうか。

「違うよ!葵は僕のだよ!運命の赤い糸で繋がっているんだからね!」
「新羅、何言ってんの?繋がってるのは、俺だよ」
「臨也こそ馬鹿なんじゃないのかい?人間を愛しすぎて可笑しくなっちゃってるんじゃないの?私と一緒に居るからこそ、葵は幸せになれる!」
「黙れよ、新羅はセルティと愛し合ってれば良いだろ。ああ、まあ一方通行か。それに、人間を愛しすぎて可笑しくなることは無いよ。愛は平等だから、無駄に愛すことなんて無い。幸せって、葵が決めることだろう?大体、君と一緒に居ることで幸せになれるのは、お前くらいのもんでしょ」

饒舌に話す二人を見て、俺と京平は固まる。ついていけない。
深い溜息を吐いて、教室へ帰ることにした。勿論、二人に何も言わず、二人を置いて。






10.04.11
 

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