愛されて愛されて。
□愛されて愛されて。04
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此処に在る自分。此処に無い自分。此処に在る自分。在る自分。
俺は今、此処に在るんだ。多分、此処で一生を過ごすんだろう。此処が好きだから。
だから俺は此処に来た。だから俺は…自分の元居た世界を捨てた。
否、出てきた。元に戻ろうと思えば、戻れる。それも、無意識的に習得した力で。
でも、俺はきっとこの世界から出ないだろう。それは、きっと彼女達を好きだからでもある。
例え、歪な世界だとしても。例え、原作とは違っていても。例え、―――…。
例え、いつか俺の存在が異端であると知られても。
臨也が好きだ。新羅が好きだ。シズちゃんが好きだ。特にこの三人は、大好きだった。
まだ三人が一緒に居る所は見たことがない。というか、臨也と新羅は、俺がシズちゃんと知り合いだということ自体知らない。俺が言っていないからだ。言っても良かったんだろうけれど、原作で臨也と静雄はいがみ合っていたから、此処でもそうなんじゃないかと思ったからだ。二人の喧嘩には、巻き込まれたくない。正直に言えば、そうなる。
ただでさえ、シズちゃんと初対面の時、あの力を目の当たりにしたんだ。まあ、結果的にはあの力のお蔭で俺は助かったわけだから、感謝しなくちゃいけないんだけど。
それでも、その力と臨也のナイフの餌食になるのは、嫌だ。というか、嫌じゃない奴なんて、何処にも居ないと思う。居たら正気か、と言ってやる。
「まあ…、それでも好きなんだけど…」
彼女達のことが。
シズちゃんは、あんな力を持っているが、彼女自体暴力は嫌いだし。キレさせなきゃ、此方に向かってくることは無い。
臨也は、新羅や他人に見せるあの歪んだ性格や、時折鋭く光るナイフを持っているけれど。だけど、俺に見せてくれる優しさや笑顔は、本物だって分かる。
新羅は、変態だって言われてるし、ちょっと思考が可笑しいかもしれない。だけど、それは彼女の興味であって、それ以外はまともなんだ。
「誰のことを?」
ふいに、耳元で囁かれて、びくっと肩を揺らす。周りのことを気にしていなかったたとはいえ、そこまで大きい声で発言したわけでは無かったのに。
なんで、聞こえているんだ、とか。なんで、追求するんだ、とか。そもそも、お前は誰なんだ、とか。色んな疑問が浮かぶ。
だけど、よくよく考えてみたら、この声は良く知った声だった。この、よく透き通った声は―――。
「臨也…?」
「正解。で、誰のことを好きなの?あたし、聞いてないんだけど」
そりゃ、言ってないから。というか、なんで不機嫌なんだろうか。ピリピリしている。
釣り目気味の瞳を、細め、その深い透き通った赤い目で俺を射抜く。
こんな視線は、初めてかもしれない。臨也は、俺にこんな視線を向けたことは無い。
悲しいと思った。
同時に、どうしてって思った。
「、なんでそんなこと訊くの?」
「知りたいからだよ。君だって、知りたいことが有れば、追求したくなるだろう?」
名前すら、呼んでくれない。今まで、どんな時だって名前を呼んでくれていたのに。
どうして、そんな無機質な物になってしまったんだろうか。君、だなんて、そこらへんの人間にかける言葉であって。
俺は、今、とても悲しくて、悲しくて。考え過ぎなのかもしれないけれど、彼女の視線が未だ緩むことが無いことが分かり、やはりまた悲しくなった。
「俺はさ、……君達が好きだよ、って」
「君達?……それって、あたしも?」
「うん…。臨也と、新羅……、」
あと、シズちゃん。
心の中でそう呟いて、力なく笑う。へらり、と効果音が付きそうな笑みを見せると、鋭い視線が緩んだ。
少し意外そうな顔をしてから、臨也は息を吐く。そして、俺をしっかりと見据えて言った。
「今はそれで良いよ。でも、絶対―――」
その続きは、言わなかった。
気になったけど、臨也がさっきとはまた違う鋭い視線を向けたから、追求出来なかった。
その、生真面目な顔を見たら――。
俺に堕ちてもらうから。
10.04.10