愛されて愛されて。

□愛されて愛されて。02
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入学してから一週間が経ち、クラスでまばらに友人が出来始めた頃。俺と臨也は席が前後ということもあり、よく話す仲になっていた。
そして、共に行動することが多くなっていた。それだけ仲良くなっているということだから、嬉しい限りだ。
ただ、彼女は端整な顔つきな為、よく告白やらアプローチを受けていた。
特になびくような素振りは見えなかった。

「臨也はさ、」
「うん」
「なんで彼氏とか作らないわけ?」

訊くと、少しだけ目を見開いてから、爽やかに笑う。機嫌が良さそうだ。
そして、俺の目をしっかりと見据えながら、臨也は言った。「作って欲しい?」と。

「え……。そ、それは…っ、」
「それは?」
「…………嫌、だ、」

彼女を取られると思った。彼女を知っているのは自分だと思った。ただの勘違い。
彼女を、彼女のことを上辺だけでしか見ていない輩から取られるのは、嫌だった。
でも、彼女がそれでも良いと言うのなら、俺は止める権利なんて無い。
ちらりと臨也を見ると、満面の笑みで「そう。なら、作らないよ」と言った。
俺の返答が、彼女を御機嫌にする要素があったんだろう。よく分からないけれど。

「ああ、そうだ。あたしの知り合い、紹介するよ」
「知り合い…?」
「うん。屋上に居るから、行こう」

自然な流れで差し出された手を、俺は躊躇すること無く受け取る。
なんて紳士的なんだろうか。これなら、男女問わず彼女に魅せられるんじゃないのかな。
そして、その知り合いって誰なんだろうか。どんな人なんだろうか。
ちょっとした興味と、ちょっとした嫉妬。




♂♀




キィと軋む音がした。少し古くなっている屋上の扉は、少しだけ重かった。
新入生が入っていいのかとか、そもそも生徒が立ち入っていいのかなどと考えていたが、臨也と居ると、どうでもよくなってしまう。
きっと彼女の周りに居る人間は、彼女の手によってあらゆる方向へ向かうんだろう。
うまく言えないけれど。

「やあ、新羅」
「遅かったね、臨也。――そちらが例の?」
「ああ、可愛いだろう?」
「俺は格好良いと思うよ?」
「新羅、あげないからね」
「嫌だなあ、まだ君のものでもないだろう?」

本人を置いて勝手に会話を進めないで欲しい。というか、会話が会話だけに、恥ずかしいんだけど。
頬が熱くなるのを感じると、すっと両手で頬を包み込み、熱を逃がす。
ああ、もう、まだ会話は続いてるし!というか、新羅さん?の紹介受けてないし!
そして、俺もしてない!なのになんでそんなに、臨也と語れるの!?

「ほら、葵が困ってるじゃんか」
「僕の所為じゃないでしょ。臨也の所為」
「はあ?――っと、ああ、ごめん。こいつ、岸谷新羅っていう変態」
「うるさいなぁ…。君は椎名葵ちゃんだよね?話は聞いてるよ」

どうして俺は端整な顔つきをしている二人に挟まれているのだろうか。
というか、新羅も臨也も、凄く素敵な笑顔を向けてくるから、眩しい。
…そういえば、新羅って、あの、岸谷新羅かぁ…。女版ってこんななんだ。あんまり変わらないような気もする。
というか、これ臨也の時もした。…デジャヴ。

「新羅はね、セルティっていう女と同棲してるんだ。そして、ずっと片想い――」
「違うからっ!同居ね、同居!片想いとかもしてないから。僕は、葵ちゃんには――」
「新羅?いい加減、刺すよ」
「ごめんなさい」

臨也が折りたたみ式ナイフをシャキンッと取り出し、新羅の目の前へつきだす。
すると新羅は、臨也の目が本気だったのを見て、素直に謝りながら、降参のポーズをする。
その二人の行動が面白くて、思わず噴出すと、二人は面食らったような表情になる。

「臨也って、新羅の前では素だよね」
「……ち、違うからっ!新羅の前とかじゃなくて、」
「あはは。素だよね、素。極悪人だもんね」
「新羅……?」「ごめんなさい」

テンポの良いやり取りは、漫才のように面白い。ただ、本人達はあまり嬉しそうじゃないけれど。

「臨也、なんで俺には素じゃないの?」

そして、素朴な疑問をぶつけてみると、彼女は苦笑しながら小さく呟いた。




「君

10.04.09
 

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