□元T3906
2ページ/6ページ

[やっぱ好きやねん]






「何でやねん!」

関西弁のツッコミが、青々とした空の下に響く。
背番号39の持ち主・矢野は、一人のチームメイトを指差しわなわなと震えていた。

「うっさいんじゃ、いちいち」

さされた指を強引にへし折ってやろうかと考えたこの男・金本は、
うざったいという顔を隠さず矢野を見た。
何も知らない人間から見れば、一触即発の雰囲気が漂う。
がしかし、この二人は同級生、しかも同大学出身。
周りのチームメイトもそのことを知っているので、誰も止めようとは思わなかった、
否、止めようとすれば短気な矢野からキレられ、
金本にちょっかいをかけられるのがオチなので、誰も“止められない”というほうが正しい。

「うっさいんじゃ、とちゃう言うねん!
何でや、おかしいやろッ?!」

呆れ顔を浮かべる金本に対して不満爆発の矢野は、身体を目一杯使って怒りを表した。
そんな矢野を白い目で見つめた後、金本は大きな溜め息を吐き言った。

「んな事いまさら言うたかて、忘れてたんやけしゃあないじゃろ!!」


事の始まりは、昨日の晩。偶然にもホテルのエレベーターで鉢合わせをした二人は昔の話題で盛り上がり、
翌日に食事に行こうと矢野が話を取り付けた。
金本もそれに賛成したが一日寝てすっかり忘れてしまい、
後輩たちに飲みに行こうと誘っているところを矢野に見られてしまったわけである。
最初のうちは金本も約束を忘れた自分が悪いと謝っていたが、
矢野の怒りは簡単に治まらなかったし、色々と言いたい放題言われた。
それに金本が逆ギレするというのが、今までの経緯になる。


「何でそこでかなもっちゃんがキレんの?!
それもおかしいわ!」
「あーもうハイハイ。わしがおかしいですよ〜」

いつまでもグチグチと言われ、金本は内心呆れたように返事をした。
それがまた、矢野の怒りに火をつける。

「あっほら!またんな子供みたいにひねくれて!!」
「・・・(一体どっちが子供じゃ)」

またそんなことを言うと話が終わらなさそうなので口にこそ出さなかったが、
もういい加減疲れた。と金本は楽しそうにキャッチボールをするチームメイトを見る。
自分もあの中に混ざって、悪戯でもかましてやりたい。

「こら、どこ見てんねんな!!」

急に大きく響いた声に視線を戻すと、2メートルほどしか離れていなかった矢野が、すぐ目の前に。
というか、ほんの少ししか隙間がないほどに顔が覗き込まれていて、急激に顔が熱くなるのが分かる。

「う、あ・・・ぅ。ご、ごめん・・・なさい、」

真剣な表情に金本は思わず、詰まり詰まりながらも敬語で謝ってしまった。
すると矢野も滅多に自分から謝らない金本の言葉に、驚きを隠せない様子で目を丸くする。

「ぃや・・・・・・うん。俺も、ゴメン・・・。」
「・・・・・・」
「・・・」
「・・・」
「かなもっちゃん・・・俺な、」


──ぼすっ


「うわ・・・!!」
「・・・・・・」
突然グラウンドの方向から飛んできたのは、投手が使うロージンバック。
それが見事に金本の後頭部に直撃し、白い粉がもくもくと煙をあげている。
矢野が飛んできた場所に視線を向けると、
そこには中堅にも達するのに未だ子供じみたことをする、お決まりのメンバー。
といっても、ある人物を除いては皆揃って顔を真っ青にしているので、投げた犯人はハッキリと分かっている。

「か、かなもっちゃん・・・」
ゆらりと身体を動かした金本を制止させようと試みる矢野だが、わずかに感じた殺気にすぐそれを諦めた。
目には見えないが彼の周りには、恐らく怒りの炎が燃え上がっていることだろう。

しょうがないから、笑顔で。

「いってらっしゃい」

と、見送った。
ついでに犯人である藤本には。
死ぬなよ、とちゃっかりエールも送って。

しばらくして聞こえてきたのは、この世のものとは思えない悲鳴。


今回の喧嘩を通じて思ったこと。
やっぱり、素直じゃないし、すぐ拗ねるし。
暴力的やけど・・・けど。
だけど、本当に。
いたずらっ子みたいに可愛い笑顔を浮かべるかなもっちゃんが、俺は。


やっぱ、好きやねん。


END
やのさん、ちょっと男前目指してみました。
え、だめ??・д・
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ