□T0103
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[愛して、愛して。×して]
※ばとろわ死ネタ注意

















冷たい風が、急かすように背中を押す。
行きたくないのに、行けるわけない…のに。
結局行っても、進んでも。
僕は、貴方を××ことなんて──。


「あ…、待ってたよ」
森を抜けると、海に面した崖に出た。
潮の匂いを感じたのも束の間、風に乗るように聞こえてきた声に心臓が大きく鳴る。
その方向に浮かんでいる柔らかい笑みに、少し安心した。
膝下まで伸びた草を踏みわけ、すぐ目の前までたどり着く。
飛び出た大きな石にかけていたらしく、伏せていた目を上げると再び微笑みかける。

「さぁ…、始めよ?」

この一言さえなければ、貴方は、貴方のまま。
僕は、僕のままで…いれたかもしれなかったのに



「トリ…よぅ顔見せて」
頬に手を添えられると、堪えきれずに涙がこぼれる。
それを見た貴方は苦笑って、指で滴を拭う。
「大丈夫、トリが悪いんちゃう。…ぜんぶ俺の、我が儘やから」
貴方の手が僕の手を、首もとへと誘う。
添えるように重ねると、直に伝わる脈音。
耳にあたる生暖かい呼吸音。
そして貴方の口から、零れた言葉。


「殺して」


暖かかった。
ゆっくり、動いていた。
涙で歪んだ視界の中、


僕は、貴方の首を絞めた。


どうして、こんなことになったのだろう。
始まりは突然で、しかも残酷。
仲間の死という現実を突きつけられ、傷ついて、傷つけられて。
でも何より怖かったのは貴方が死んでしまうことだった。
そうしていつの間にか、僕と貴方の2人になってしまっていた。
初日のスタートから3日ぶりに再会して、そして思いがけない言葉に耳を疑った、あの時。

『俺を…殺して』

何を聞いても答えてくれない。
明日同じ時間、この場所で待ってるとだけ言って。
僕は怖くなって逃げ出した。
できるわけない、自分に言い聞かしていたのに、足は自然にこの場所へと進んだ。

「…ァ゛、…っと…り、」
かすかに聞こえた小さなうめき声にハッとする。
青ざめた顔で、でも緩めようとした手を掴んで、

「…こん、なっ…俺、を……」


強い風が、貴方の声をかき消した。
最後の、言葉を。
最後の、想いも。


もう僕には、二度と届かなかった。


END
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