□混合
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[永遠?](YS10+T01)






「あっちぃ〜」
「暑いですね」
「・・・お前、ホンマは暑くないやろ?」
「そんなことないですよ」

涼しそうな表情を浮かべる鳥谷を見て、藤本はついにゴロンと芝の上に横になってしまう。
現在の気温、27℃。
地元ではまだ寒風が吹いているというのに、さすが最南端の沖縄。
毎年の事だが、キャンプ地であるここに来るのが冬の楽しみになってしまっている。
夏も嫌いだが、冬も嫌いだ。
それよりもここに来るまでの飛行機移動が、実は何よりもつらい。
疲労と気候の暖かさに、藤本はグラウンドにも関わらずうとうとと眠気を感じてしまう。
堪えきれずに、ふ・・・と目を瞑ろうとした時、隣にいた鳥谷が急に口を開いた。

「藤本さん」
「ん〜・・・?」
「・・・別れって、考えたことがありますか?」
「なんや、それ・・・。・・・あれ?この間の金澤みたいな、」
「違います」

しっかりとした否定の声に、どうしたんだと鳥谷の顔色を窺う。
思わず、息を呑みこんだ。
それは今まで見たこともない、哀しさに満ちた目だったから。
その透き通った黒い瞳に映るのは、背番号3の姿。

「・・・僕、時々不安になるんです。この幸せな時間は、いつまで続くんだろう・・・って。
でも、いつかは・・・終わっちゃうんですよね。・・・それがどういう形であっても」
「トリ・・・お前、」
「今はまだ、関本さんが勘付いてないからいいんです。
きっとあの人なら、悩みに悩むと思いますし・・・。
・・・ま、こんなことで苦しむのは僕だけでいいんですけどね」
鳥谷の顔に、いつもの不器用な笑顔が浮かぶ。
俺はそれを見て笑う事も出来ず、ただ魂が抜けた人間みたいにある一点を見続けていた。


トリは、セキと離れるのを怖れてる。
さっき言ってたどういう形っていうのも、二人はまだ若いから恐らくトレード、移籍でという形の別離の可能性が高い。
偏見から見れば、それは「しょうがない」で終わらしてはいけない言葉。
だけど、この世界は、“結果”が全て。
いい成績を残さんかったら、首を切られる。
それは、・・・俺も同じ。
人気だけで、生き残れるわけがない。
きっとトリも、分かってるはずやとは思う。


「俺は・・・」
「?」
「トリみたいに、そんな真剣に考えたことなかった」
「・・・」

藤本の脳裏にも、鳥谷と同じように大切な存在の姿があった。
10近くも離れていていい大人のはずなのに、
子供みたいな悪戯をして、その直後に浮かぶ笑顔。
決して楽な道を歩んできたわけもないのに、それを隠して生きている。
弱さを見せることが、何よりも嫌いな人。
そんな人柄と、その弱さも、全部受け止めたいと思った、から。
現に俺は、傍にいることを許される男になった。


「考えてる・・・けど、金本さんは俺の思いを簡単に読み取ってまうねん。
んでな、ぶん殴るフリして言わはる・・・」


お前が、そんなこと考えんでいい。


「他にもっと、考えることあるやろうって」
「・・・・・・」
「不安に、なるよな?
俺らはしたらアカン恋をしてしまったって」
「そう、ですね・・・」
「お互い妻子いる身・・・・・・、そんなことも忘れるくらい好きになってしもた。
同じくらい大事な存在なったって、割り切ったったらエェねん」

鳥谷が隣で強く頷くと、ようやく藤本にも緩んだ表情が戻る。
結局、自分が救われたのかもしれない。
鳥谷以上に不安になり野球に影響を出す始末なら、あの人のほうから俺を捨てはるかもしれんから。
──と、横腹にずしりとした重さがかかる。
スパイクの先でぐりっと押さえつけられると、痛みと同時にこそばゆい感覚が走った。

「いった、いてて・・・ぎゃはははは!!!」
「ばーか」
「馬鹿ですね」
「トリ、お前せっかく俺が、ッ・・・ひぃいいーっ!!」
「何をお前寝とるんじゃボケ!!」
「あ、トリおったー」
「関本さん・・・」

痛みと笑いの涙で滲む視界に、トリとセキの幸せそうな笑顔。
俺の隣では、金本さんが笑ってる。


この時間は、永遠じゃない。
今は笑ってるけど、この関係が終わってしまうことになったら。

セキはやっぱり、泣くんやろか?
坪井さんの時のように。
トリも、涙流すんやろか?
セキがおらんようになったら。

金本さん、・・・あの金本さん、も。
俺と離れたくない言うて、泣いてくれるんやろか?

そんな直面にあったとき、


俺は、その時、どんな顔してるやろ・・・?


END
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