□03受
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Areyou.HAPPY?[03総受]





今まで数々の友人の誕生日を祝ったことがあるけれど、これほど気合を入れることは初めてかもしれない。
一ヶ月も前からあれこれと考えていて。
プレゼントに花束を贈ろうとすぐに思いついたが、日が経てばいつか枯れてしまう。
できれば、形として残るものをあげたい。
けれど、あまり高価なものを贈っても恐縮されそうだし。かといって、安すぎるのも失礼だ。
まず高い安いの境界ってどこ?
関本さん、何もらったら嬉しいのかな?
一つの疑問がどんどん膨らんでいって、考えすぎで余計にどれにするか迷った。

結局、あっという間にその日はきた。
プレゼントだけで悩んだ、あの一ヶ月間は何だったんだと、しみじみと感じて部屋を後にする。
もう数分と迫った、一年のうちの特別な日。
腕に抱えたプレゼントを持って、こんこんと控えめにノックをした。

「はい?」
「あ、っ俺です、鳥谷です。」
扉が開くまでが、ものすごく長く感じる。
ドキドキと高鳴る鼓動が早くなってきて、おかしくなってしまいそう。
すると、タイミングを見計らったようにドアがあき、隙間から覗いた顔。
「どうしたん??」
「おめでとうございます、」


誕生日。


笑顔でそう伝えると、それまで少ししか開けてなかった扉を全開にして。
ぱちぱちと何度か瞬きをし、次はあたふたと慌て出した。
その様子が、なんだか微笑ましくて。
堪えきれずプっとふき出すと、手首を引いて部屋の中に招き入れた。
ずんずんと奥にまで進み、ようやく振り返ったその顔は。

耳の先まで、真っ赤に染まっていた。

「たっ、誕生日って・・・、」
「今日・・・ですよね?」
「きょう?ぇ、ッ・・・明日・・・ぁ、」
時計を見て、日付が変わったことに気付き、また視線を前に戻す。
しかし目は泳いだまま、まっすぐに顔を見れないでいるようだった。

「これ、プレゼントです。」
「・・・はな?」
「造花ですけどね。・・・残る物のほうがいいかなと思って。」
手渡した花束を、感慨深げに見つめて、ぼすんと顔を埋めた。
この上なく幸せそうな表情に、今まで頑張ってきた甲斐があったと、安堵の息が出る。

「・・・ありがとうございます」
「え?・・・お礼言うんは俺のほう、」
「違いますよ、」
首を傾げている関本さんの腕を引き寄せ、抱きしめた。
すると手から花束が滑り落ち、呆然と固まった立ち尽くして。

「っト、リ・・・?」
「生まれて来てくれて、ありがとうございます。」
「!」
「あなたに出会えて、俺は、・・・とても幸せです。」
徐々に身体の緊張も解れてきて。
それまで横につけたままだった両腕が、背中に優しく廻った。
それはまるで、求めるように、強く。離さないでという、無言の訴えのようで。
「・・・ありがと、トリ。今までもらったプレゼントの中で、ほんま・・・一番嬉しい」

ありがとう。

今度は、その言葉を噛みしめるように。
そして近付いてきた口唇は、軽く、音をたてて。自身の唇に触れた。
逆に、こっちが照れて。二人とも同じ、真っ赤になった顔。
お互いこみ上げる笑いは、しばらく止むことは無く、幸せな時間だけが過ぎていった。




「じゃあ・・・、夜分遅くに失礼しました。」
「ふふ、改めて言わんでも。・・・また明日。」
「明日・・・じゃなくて。今日ですよ、関本さん。」
「・・・あ。そうやね、じゃあまた、朝に。」
ひらひらと手を振って、自室に戻る俺をわざわざ見送ってくれた。
部屋に戻る最中も廊下で、あんな些細なプレゼントを喜んでくれたあなたが思い浮かんで。

自然と口元が緩み、今日の朝が楽しみだと考えると、足が軽くなったような気がした。




けれど、現実はそう甘くはない。
俺はそのとき、浮かれていたせいで、すっかり忘れていた。


この世界には、関本さんに想いを寄せる人物が多数いることを。




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