短編小説
□100年戦争(TRICK)
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「………それで?」
「なんだ…その……、すき、焼きを――、、っ!!」
思いきって一歩、距離を詰めたらそこは戦場だった。
上田さんの表情は見事な百面相になっていて、私はそれをまともに直視できなくて俯く。
伸ばしては引っ込められる手をショーウインドウ越しに密かに追いながら、言葉を噛み殺して「ばか上田」と呟いた。
お互いの手の内なんてわかりきってる。仕掛けなければ始まらないのも、同様に。
それでもまだ探り合いは続く。
手垢のついた駆け引き攻防戦
に、期待するのはやめようか
は、もうやめましょうよ
どちらのカードも切れない私と、ちっとも煮えきろうとしないこいつは同罪で。だけどまだ共犯者にはなれなくて。
さっきから沈黙が煩い。
そっと辺りを見回してみた。
たとえ見え見えの罠だとしても、進んで自ら掛かりに行こう。できるなら、なるべく知らん顔して掛かりに行こう。
でもそんなものはなくて、代わりに、口を尖らせた美人の仏頂面が映った。
「……もう帰るか?」
「…………」
「…………」
「…………」
「……………なんか、食べるか?」
「…はい」
(ねぇねぇ早く爆弾でも何でもいいから落としてくださいよ、もう準備できてますから。)
伝えられない想いを並べながら、私は後ろ手に持った白旗を握り直した。
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タイトルああだけど、早く終戦に向かってくれないものか…