短編小説

□真白な道を(TRICK)
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いつもどおり上田に連れられ、いつもどおり事件を解決し、いつもどおり負け犬の遠吠えを聞いて、いつもどおりの帰り道。
そんな中でも一つだけ違うものがあった。


天気。

雨が降った記憶もろくにないのに、今日の天気は雪。







「あーー、寒っ」
「俺だって寒い。早く歩きなさい」
「…トリック説明と決めゼリフの時、傘さしてなかったから寒いんです」
「俺だってさしてなかったし、まず傘なんて持ってない。早く歩きなさい」

私なんかお構い無しに上田はずんずん歩く。その背中を見ながら、私も歩く。

この雪30pはありますね。
次郎号見つけても動かないんじゃないですか。
ていうかちょっとは気遣えよ。

言いたいことは沢山あったが、いつの間にか上田が立ち止まっていたのでその隣に並んだ。

「見ろよYOU、足跡ひとつない」
「こんな辺境に人なんて来るわけないだろ」

「……気にしなくてもいいんだぞ」
繋がってない会話に、私は上田を見上げた。
「霊能力者とか、島の奴らとか、カミヌーリとか、…貧乳とか」
「すっかり忘れてましたけど。あと貧乳は余計だ」
先ほど聞いた負け犬の遠吠えがよみがえる。
                            ぼーっとしてたら、急に手首の部分を掴まれた。
「滑ると危ないだろ。……お、俺が」







相変わらずの雪道を、二人でぎこちなく歩く。
上田さんは、まだ私の腕を握ってる。
きっと私の強がりくらい気づいてるんだろう。
何だか無性にこそばゆくなった。


私達の前はいまだに雪道。足跡ひとつない、白い道。
その道を、ただの奇術師とただの物理学者で。


(いつかこんな日が来ればいい)




真白な道を、貴方と。
                            

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