短編小説

□イブの夜(TRICK)
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不意に電話が鳴って、体がビクッと跳ねた。
さっきの今だからしょうがないのかもしれない。
無意識に念じながら電話を取る。

「…もしもし」
「なんだ居たのか」
期待通りの声。
「………」
「………」
「…誰で「わかりやすい嘘はやめないか」
「…、何なんですか?」
「君、どうせ貧乏してるんだろ」
「いや珍しく、じゃなくて!!いつも通り食べる物には困ってません。」
「え………」
「クリスマスはかき入れ時ですからね。今日もさっきバイトから帰ってきて…」
そこまで言って、しまったと思った。
「あー、そうか。ハハ、珍しい事もあるんだな」
明らかに動揺してる声。
珍しくお金に困ってない自分を呪った。
「で、でも!!…食べれる時に食べとかなきゃだし、今だけかもしれないし、さ、寒いしっ…」
それでもなんとか絞り出した言葉が届くように祈って。

「そ、そそそうだな。じゃあ明日……、」
受話器を握る手に力がこもる。
「明日……あ、あ、…食事でもどうだ」
「別に…いいですよ」
素っ気ない返事を返しながら「あ」で始まる言葉を少し考えて……、そしてこの会話が電話越しで良かったと心の底から思った。
「じゃあ、明日」
「はい、明日」

切れた電話をしばらく見つめた後、火照った頬のぬくもりを確かめながら私は眠りについた。

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