小説

□I am GOD'S CHILD (TRICK)
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燭台に木をくべる。


(なんのために生きているのだろうか)


ボウ、と火が灯る。


(こんなもののために生きていたのだろうか)


松明を持った手を、最後に、終焉に向かって、伸ばした。


(…こんなもののために生まれたんじゃない)




だけど私は、此処で神様になる


“あの島”よりマシな居場所が、此処にあったから
















「あーもーどこなんだここはーーっ!!」

私の名前は山田奈緒子、美人天才マジシャンだ。……それ以外思い出せないけど。

「もう夜だぞ……寝床どうしよ…」

怪我が完治して、後先考えずありったけのお金で日本に戻ってきた。もっと後先考えときゃ良かった……あぁ、後悔先に立たず、だ。

(こんな無駄な知識ばっかり覚えてやがって、この頭)

機内食をたらふく食べてきたから当分は大丈夫だろうが、早いところ資金源が欲しい。しかし、コンビニにある求人誌を片っ端から読み漁ってみても自分の名前以外思い出せないような人間を雇ってくれそうなところは見つからない。

「うう…バイト…バイト…カネ…カネ……ん?」


半ば絶望的な気持ちで雑誌の怪しげな求人を眺めていた時だ。“それ”を見つけたのは。


「挑戦状……上田、次郎」

「…――っ!?」

瞬間、体を何かが走り抜ける。

(金のボール、糸に吊して、いやもっと、超能力じみた、瞬間移動、100円玉、封筒、二枚で)

「…まただ」

頭では覚えていないのに、体が覚えている、この感覚。
機内でヒマを紛らわすように取り出したトランプ。それを扱う指が、まるで自分のモノじゃないような、そんな。

(本当にマジシャンなんだな、私)

タネは自分でも驚くくらいすぐに完成した。

「急がなきゃ…日付…変わっちゃう…」

練習もしないで上手くいくのかとか、できたとしてもちゃんと騙せるのかとか、そもそも大学は夜中までやってないのではとか。
そんな不安は不思議と湧いてこなかった。


大丈夫。

ただ漠然と、そんな“記憶”があった。










今 思えば、それは正しかったんじゃないかとさえ思う。

「なぁYOU、」

「だからそのユーっての止めてくださいよ……なんかモヤモヤする」

「………」

「…なにニヤニヤしてんだ」

上田を私の天才的マジックでまるっと丸め込んだ一件以来、私とこいつの妙な関係が始まった。
まぁ記憶をなくしてから初めて知り合った人間が、かつての自分の知り合いだったのは奇跡だったと思う。

だけど、

「……YOU」

「あ、ちょっ」

なぜかこいつはことあるごとに私を抱きしめる。

なんでコイビトでもない男とこんな事をしなきゃいけないのだ。

(でも…“知ってる”。私は、これが嫌じゃない)

こうしてふとした時に思い出す、以前の私の記憶。

抱きしめられたまま問いかけが降ってくる。

「どうだ思い出したか?以前の君は俺のことが大好きだった…!」

「なわけねーだろターコ」

「………」

「また!なんで笑う!」

「質問を変えよう。君は以前どんな人間だった?」

「どんな?そんなのわかんな―」

―――神様

「…っえ」

「どうしたYOU?」

「いえ……」

ああまたか。曖昧な単語が頭をよぎる。

(島の、カミヌー、救う、カミ、神様)

まぁさすがにこんな内容なら、以前ではなく前世の記憶とかなのだろう。
前世が神様か。うん、悪くないな。

「じゃあ…神様の子供」

「神…様…?」

心なしか上田の表情が曇った気がする。どうしたんだろう。

「…なぜそう思った」

「なぜって……なんか前世の記憶が?」

「………そうか」

「上田さん?」

「そうだな。君は神の子供だ」


その時の彼の表情は、なんと形容すれば良かったのだろう。


細めた目の向こうには、優しさと、そして悲しみがあって。
抱きしめる力が強まる。そこで初めて私は、それが愛しいものを見る表情なんだと気がついた。


「……YOUは、神様なんかじゃあ…ない…」


瞬間何かが走り抜ける。


意識が、遠のく。


「神様なんかじゃ……ないんだ……」


(…………………)


(…………………)


「…あたりまえだろ」

「え、」

「私の名前は山田奈緒子。美人天才マジシャンだ」

「……………ユー…」

「……この、バカ上田!」



―――――――――――――
もはや私の中で恒例の、最初になぜかタイトルだけ決まってましたシリーズ。もう一度新たなスタート!も良いとは思うんですけど、どうしても奈緒子の記憶が戻って欲しい派です…

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