小説
□野良猫お悩み相談所
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久しぶりに訪れた長野の地で奈緒子は一人途方に暮れていた。
(あーもーむかつく!)
今朝の出来事を思い出せばまたイライラしてくる。
上田と、ケンカをした。
だから家をとびだして、こうして長野まで来たのだが、ずっとそのことばかり考えていたせいだろうか、ここに来るまでに気づくべきだった。あの母はきっと私の味方をしてくれない。
(あーあ、友達がいれば(今、この場にって意味だ!)話を聞いてもらえるのに)
まだ実家からも遠く民家も少ない…というより何もない田舎道。友人はおろか人すらいない。
(とりあえず、帰るか)
はぁ、と来た道を戻ろうと振り向いたそこに野良猫が一匹、奈緒子を見上げていた。
「びっくりした…」
猫は人なつっこいのか逃げだそうとしない。ためしにしゃがんで目線を合わせても、逃げるどころかその場にしゃがんでしまった。
「にゃ〜ん」
「……おまえみたいに可愛かったらなぁ」
なんとなく話しかけてみると首をかしげられた。
周りには人はおろか、この猫しかいない。
「……聞いてくれる?」
野良猫は、なー、とひと声鳴いた。
ぜんぜん女性らしくないっていわれたんだ――
にゃー。
細かいことをさぁー――
みゅ。
あいつだって泣き虫弱虫で――
ナー?
…まぁ、私もちょっと言い過ぎたかもしれないけど――
にゃーん。
散々話し終わったあと、野良猫相手に何をしてるんだろ、と我に返る。
立ち上がって伸びをすれば、隣で みー…、と心配そうな声がした。
奈緒子は少し考えたあと、声のほうに向き直る。そして、
「大丈夫、あいつのこと大好きだから」
と少し照れながら宣言した。
「話、聞いてくれてありがとう」
「にゃあ〜ん」
駅に向かってぽてぽて歩く。
(最後のあれ、猫相手だから言えたんだよなぁ)
とっさに出した答えとはいえ、わざわざ言葉の通じない相手にウソをつくのも変な話だ。
だとしたら、
(あいつのことが大好き…かぁ)
本心、なんだろうな。
考えてみれば今までは、ここまで本気でぶつかれるほどお互いのことを知らなかった。
大まかなルールやお約束があって、大きなケンカに発展するまでの要因がなかった。踏み込めなかったのだ。
けれど上田とこういう関係になって、今までは特に気にしなかった女性らしくないの一言も改めて言われてると傷つくことを知った。
(思えば家を出てからここまで、ケンカのこととはいえずっとあいつのこと考えてたんだなぁ…)
「…しょーがない、仲直りしてやるか!」
自分の正直な気持ちを知れた今、こんな小旅行もたまには悪くないなと思う。
先ほどの野良猫に感謝をしつつ、奈緒子は足取りも軽く長野の地を後にした。
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奈緒子と上田以外ぜんぜん小説に登場してないので里見さんの話を書こう!と舞台を長野にしてみたけど結果として野良猫しか登場しなかった。
動物相手ならきっと奈緒子はデレてくれると思います!(力説)