短編集

心権
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暗い暗い、部屋の中。
ここは一体どこだろうか。
幾度となくしてきた自問を、また繰り返してみる。

壁が冷たい。水滴の落ちる音がする。
日が差すこともないから、多分どこかの地下室だと思うけど、本当のとこは知らない。


いつからここにいたっけ。
それすらも覚えてないや。

今日は何月何日?
わからない。何もわからない。


産まれたままの姿にさせられた挙げ句、首輪をされ壁に鎖で繋がれている今の状況では、逃げ出すことはおろか自由に歩き回ることすらできない。
そんな私が、現在の日付を確認する術を持っているはずなどないのだ。




コッ、コッ、コッ……



不意にすぐ傍の階段から足音が聞こえてきた。

私をここに閉じ込めた張本人がやって来る足音が。



「名前」



少し低く透き通るような声で、懐中電灯で私を照らしながらそいつは私の名を呼んだ。

だけど私は返事をしない。
これが逃げ出せない私の、唯一の抵抗だから。



「…名前。まだ返事をしてくれないのか?」

『…………………』

「………まぁ、いいけど。そういう抵抗をする名前も、可愛いから」



そう言って、懐中電灯を置いたそいつが私に近づき片膝をついて私の顔を覗き込む。



「………俺を睨みつける顔も、可愛いよ」



言いながらそいつは……鳴上君は、私の顎に手を添えて唇を重ねてきた。


柔らかく、暖かい温もり。
だけど全然心が温まらない。
嬉しさも、幸せも感じない。



「……名前、好きだ」



一度唇を離した鳴上君から囁かれた愛の言葉。
そして再び重なる唇。

しかし今度は唇を無理矢理こじ開けられ、ぬるり、と咥内に舌が侵入してきた。
逃げる私の舌を器用に搦め捕り、咥内を犯していく。



……嬉しくない。
気持ち良くなんか、ない。

好きじゃない人にされても、嬉しさなんてあるはずない。

だって私が好きなのは……



「……っ…はぁ…」



しばらくして唇が離れると、鳴上君が鎖を解いて私を押し倒した。

私は押し倒されたまま鳴上君を見上げる。



「…名前…俺を見てくれ…。俺だけを……」



鳴上君の瞳は、暗い室内でも分かる程に狂気に満ちていて、口元には歪んだ笑みが浮かんでいる。
背筋が凍りそうなほどだ。



『……い…や…嫌……。…私は……完二が…好き、なの……』



それでも私は拒絶の言葉を放つ。

そう、私が好きなのは鳴上君じゃない、完二だ。

私は…完二が、完二しか……好きじゃない。



「……そうか。名前は、まだ完二に汚染されてるんだな…」



“なら、早く俺色に染めて助けてやらないと“
そう呟いた鳴上君が、私の首筋に顔を埋めて舐め始めた。
そうしながら、鳴上君の手が私の胸を鷲掴む。



ここに閉じ込められてから、鳴上君が来る度に、こうして犯される。



初めは嫌だった。
噛み付いたり蹴ったり、必死で抵抗した。

だけど、男女の力差は歴然で。
だからもう、抵抗はやめた。



そのかわり、私は声を一切出さない。

鳴上君は、私の声を聞きたいと言う。
だから私は声を出さない。


私の心が完二のものであることを示すために、私は小さいながらの抵抗をする。

そう、私は完二のものだ。

たとえもう二度と会えなくても。
もう二度と話せなくても。

私の心は…心だけは、完二のものだ。









心権



今日も私の身体は鳴上君に染められる


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