短編集

LOVE YOU
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アイツの頭の中は常にミラ様だ。
脳内の99%がミラ様でできている。
あとの1%は…多分ニ・アケリア。

私のことなど、一切頭に無いだろう。



幼なじみのイバルと私。
イバルは面倒見がよくて、昔はよく私の相手をしてくれていた。
家族のいない私の傍に、ずっといてくれた。
そんなイバルが私は好きだった。




だけど今は嫌いだ。

口を開けばミラ様ミラ様ミラ様…

昔はしょっちゅう呼んでくれていた私の名を、今はミラ様の居所を尋ねる時しか呼んでくれない。


そう。イバルの中の私は…消えた。
イバルの中の私の居場所は消滅したのだ。



もう彼が私を見てくれることはないだろう。


彼の眼中には、ミラ様しか写っていないのだから。




だから私は、イバルがミラ様を追い掛けた直後にニ・アケリアを飛び出した。



もうイバルに会いたくなかったから。
ミラ様を見る度に嫉妬してしまう自分が嫌だったから。


だから私は旅に出た。
幸いにも私は戦えた。
だから魔物も片付けることが出来た。
私の旅は順調だった。



だけど心は寂しかった。

ニ・アケリアにいた時も寂しかったけど、旅に出ている今も寂しかった。


それは当たり前だった。
だってニ・アケリアにいても、今こうして旅に出ても、大切な人が傍にいないのだから。



大好きな人が、もう私の隣にくることはない。
それがどれ程寂しく、悲しく、苦しいことなのか。



美しい景色を見ても、美味しい物を食べても。
何をしていても私の心は満たされない。


イバルがいてくれないと、私は幸せを感じられない。




だけどイバルの隣に私は行けない。
私の居場所は、もう無いのだ。





イバルに会いたい
イバルに会いたくない

イバルと話したい
イバルと話したくない

矛盾する、私の気持ち。





ねぇ、イバル。
君は今、何をしていますか?

私は今…生きる意味を見失っています。




















「…やっと見つけた」



旅を始めて一年程経った、ある日。

夜のル・ロンドの海停で一人、海を眺めていると、不意に背後から声が聞こえた。

その声は、私の聞きたくて、聞きたくなかった最愛の人の声だった。

だけど私は背を向けたまま振り向かない。
私はもう、彼の所には戻れないのだから。

彼の姿は見てはいけないのだ。



『………イバル。なんでここに?』



一年ぶりというのに、私の声は驚く程に冷静で低い。



「探していたのだ。ナマエを」

『……頼んでない』

「俺が会いたかったから探したのだ」

『私は会いたくない。…今すぐ消えて』

「……ナマエ…」



どうして今更私を探したの?
どうしてその声で私を呼ぶの?

今更…もう、遅いよ…



『………私の居場所は…もう無いの。イバルの傍には…もう…』

「……それはお前が決めることではない、俺が決めることだ。俺の隣は、ナマエ。お前しか、いてはいけない」

『…そんなの…嘘だ…』

「嘘ではない。ミラ様は俺の人生を歩めとおっしゃられた。だから俺はこれからはナマエのために……ずっと俺を支えてくれたナマエのために、共に人生を歩む。そう決めた」

『…い…ばる……』

「………今まで、構ってやれなくて悪かった。ナマエが俺から離れることはないと…勝手に決め付けていたから、だから放っておいても大丈夫だと、思い込んでいたのだ…」



未だ背を向けたままの私を、イバルが後ろから抱きしめてきた。

この温もりを感じるのは…何年ぶりだろうか。
抱きしめられた瞬間、私の瞳から涙が溢れてきたのは何故だろうか。

いや…わかってる。
私は……嬉しいんだ。

ずっと抱えてきた寂しさや悲しみ、嫉妬心が、イバルの言葉や行動一つであっという間に無くなってしまったのだから。



「……好きだ。もう俺から離れるな。俺もお前を、離さない」

『……イバル…っ』

「……帰ろう…一緒に、ニ・アケリアへ」

『………うん…。…もう…一人ぼっちは嫌だよ……』

「わかっている…。これからはずっと…傍にいる…。…だから、もう泣くな…」



イバルにもたれ掛かるように身を預けると、イバルは優しく包み込んでくれた。

ここでようやく実感する。
私は…イバルの元に戻れたのだ。

大嫌いだった…大好きな…彼の元へ。


ようやく私は…生きる意味を見出だせた。








LOVE YOU





もう二度と、離れない。離さない。





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