短編集
□雨の日の君
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とある夏の日の午後。
ザーザーと降り続く雨の中、俺は全速力で自宅へ続く道を走っていた。
「ちっくしょー!天気予報じゃ晴れだって言ってたくせに、思いっきり降ってるじゃねーか!」
天気予報を信じて傘を持って出なかった結果がこのザマだ。
マジありえねぇ…
この服買ったばっかだっつーのに!
と、こうして悪態をつきながら走っている間にも、雨が激しさを増して俺の体を濡らしていく。
こりゃ早く帰って風呂入らねーと、風邪引いちまうぜ…
「…くそ…早く家帰らねーと……って、ぶふっ!?」
しばらく道を走り、もう少しで家に到着するという時、突然後ろから何かに抱き着かれた。
不意打ちを喰らった俺は、そのまま前に倒れ込む。
「…いってぇ…!ったく、誰だよいきなり!」
『……ようすけー…』
「って名前かよ!?」
背後から聞こえてきたのは、恋人の名前の声だった。
ってお前こんな土砂降りの中で何やってんだ!
いや俺もだけど!
「と、とりあえず一旦どいてくれ!起きれないから!」
『うーす』
けだるい返事をして名前が俺から降りる。
背中から体温を感じなくなったことを確認し、ゆっくりと体を起き上がらせて立ち上がった俺は、とりあえず名前から話を聞こうと名前に向き合い、そして硬直した。
こ、こいつ…下着が透けてんじゃねーか!!
いや透けてるどころじゃねぇ、殆どまる見えだぞ!?
「………名字さん」
『なんでしょう花村さん』
「お前、今までどこで何してた?」
『河で釣りしてた』
「誰かに会ったりは?」
『釣りの最中は会わなかったけど、雨が降ってきて陽介ん家に避難しようと向かってる途中だったら何人かに会ったよ。でもなんでか知んないけど、皆こっちを見てた。なんでだろうね』
「決まってんだろ透けてるからだよ!下着が!透けてんだよ!水色のフリルがまる見えなんだよ!!」
『え、マジで?……あ、ホントだ』
「薄っ!反応薄っ!つーか何してんだよお前マジで!なんで気づかないんだよ!!」
『いやほら、がむしゃらに走ってたからさぁ。それに下着なんて水着とたいして変わんないじゃん。だから見られたって平気…』
「なわけあるかぁ!俺が嫌だわ!彼女がそんな格好して外ふらつくのを許せるわけねーだろ!?そして水着と下着を一緒にすんな!」
ああもう!なんでこいつはこんな能天気なんだよ!
「とにかく家に来い!それ以上そんな格好他の奴に見せたくねーし、何より目のやり場に困る!」
『いやーん、陽介のえっち』
「うるせーんだよ!!」
こいつ女の自覚あんのか!?
我が彼女ながらビックリするわ!!
危機感の欠片もない名前を半ば強引に家に連れていき、そのまま一直線に風呂場へと向かう。
幸い家には誰もおらず、名前を見られるという危険はなんとか回避出来た。
「あっぶねぇ……。今のお前、家族の誰かに見られたらどうなってたか…」
『え?私見られたらダメなの?』
「自分の今の格好を考えた上で発言してくれ」
下着まる見えの彼女連れ込んだ、なんて知られたら親父にボコボコにされちまうわ!
って言ってもこいつは分かってくんねーんだろうな…
「とりあえず、お前風呂入れよ。着替え貸してやるからさ」
『あ、うん。ありがとう。でも陽介もびしょびしょだし、このままじゃ風邪引いちゃうから陽介から入ってよ』
「それならお前もだろ?女は体冷やさない方がいいって聞くし、お前から入れよ。俺は滅多に風邪引いたりしねーから、別にお前の後でも…」
『だめ。ていうかここ陽介ん家なんだし、陽介から入るのが妥当じゃん』
でしょ?と言って名前が俺に笑いかける。
いや…でしょって言われてもな…。
つか、なんで名前はこういう時に限って頑固なんだよ。
「いやだから…。………あー、このままじゃラチがあかねぇし、いっそのこと一緒に入るか?」
『………………』
「…なーんてな。冗談だか…」
『そうだね、そうしよっか』
……………はい?
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