短編集

嘘と真
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『たっちむー!』

「わっ!ちょっ…名前さん…!」

『うへへ!たちむーあったかー!』



俺より年上なのに、年下みたいなサッカー部マネージャーの名前さん

そんな名前さんに、俺は恋心を抱いていた



「お、俺汗くさいんですから…そんなくっつかれると…!」

『たちむー君、顔赤いぞー?それに私、たちむーの匂いなら気にしないから』

「赤くないですし俺が気にします!それより、たちむーはやめてくださいって何度言ったら…」

『えー、だって[立向居]って長いんだもの。たちむーのが楽なんだものもの』

「長いって…。…というか語尾の意味がわかりません!」

『気にしない方向に行こうたちむー君!』

「…はぁ、もういいです…」



出会い当初から、俺を[たちむー]と呼ぶ名前さん
最初は複雑だったけど、今はもう慣れてしまったから、たちむー呼びの方が名字よりもしっくりくる

本当は名前で呼んでほしいけど……やっぱり言えない…



『まーまーたちむー君。せっかくの休憩時間なんだし、気分転換に何かしようじゃないか』

「…じゃあ、名前さん。俺にシュート打ってください!名前さんのシュート見てみたいです!」

『やだ』

「即答!?」



名前さんは、一度もボールを蹴ってくれたことがない
俺がどんなに頼んでも



『だって私、たちむーに向かって蹴れないから』



と言って、いつも拒否されていた

先輩方に聞いても、皆名前さんがボールを蹴る姿を見たことがないと言う


俺は、それがいつも不思議でしかたなかった

もしかしたら、名前さんには、蹴れない理由があるのかもしれない

でもいつか、一緒にサッカーできたらいいな
と思ってた

















思ってた、のに…



『やほー、たちむー君』

「……名前……さん……?」



どうして、貴女が俺達の前にいるんですか?

どうして、エイリア学園のユニフォームを着ているんですか?

どうして…どうして…ー!



「ど、うして…なんで……」

『私、ちゃっかりジェネシスに所属してるんだなーこれが。騙してごめんねごめんねー』

「…嘘……嘘、だ……嘘だ…!」

『…嘘じゃないよ。ごめんね、立向居君』



…やめてください
いつもみたいに、たちむーって呼んでください…

そんな悲しい顔して、笑わないでください…!



「ジューダス、知り合いかい?」



ジューダス…
それが名前さんの、今の名前…?



『そうだよグラン。私の可愛い可愛い…[元]後輩』



[元]
その言葉が、大きくのしかかる


もう俺は…貴女に抱き着いてもらえないんですか?

もう俺は、たちむーって呼んでもらえないんですか?

もう…俺は……



『立向居君。今の私はジューダスなんだよ。名前じゃない。君の好きな名前は、もういないんだよ』


名前さんが…いない?
じゃあ、目の前の彼女は…誰?

名前さんは嘘?
ジューダスが真?

どっちが本当の貴女なんですか…?



『あとね、立向居君。私が一度も君に蹴らなかったのは、君が私のシュートを止められないって思ってたからなんだ』

「……………」

『でも今の君なら、止められるかもしれないね。だからさ、立向居君』




“サッカー、しようよ“








違う
俺は貴女とこんなサッカーがしたかったわけじゃない




…それでも、貴女は俺達の敵だから

だから、俺は…



「…わかりました。そのかわり…俺達が勝ったら…、…戻ってきてください。名前さん」

『…考えとくお。たちむー』








嘘と真





たとえ真がジューダスだとしても

俺は名前さんに、戻ってきてほしい

そして俺の気持ちを伝えるんだ



そのために…
ジューダスのシュートをとめてみせる!


.

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