短編集
□師走=忙しいとは限らない
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ある日、いつものように三人分の朝ご飯を作っていると、銀ちゃんの部屋から「ぐふぅ!」というマヌケなうめき声が聞こえてきた。
なんだなんだ、またさっちゃんが降ってきたのか?と軽い気持ちで銀ちゃんの部屋の襖を開けると。
そこには、さっちゃんではなく素晴らしく長い黒髪をした青年が銀ちゃんの上に倒れていた。
私はその青年に見覚えがあった。
その青年は…[マギ]に出てくるジュダルだった。
似ている、というレベルではない。
くりそつなのだ。
[マギ]の中で一番好きなキャラであるジュダルが銀ちゃんの上に現れたことに、びっくりしすぎて腰を抜かしたのは言うまでもない。
おそらくトリップしてきたのだろう。
頭ではわかっているが身体がついていかなかった。
それからすぐにジュダルは起き上がり、[マギ]を読んでいない銀ちゃんも怠そうに起き上がったため、神楽をたたき起こして、やって来た新八君と皆で万事屋会議。
そして私の提案で、この世界を知らないジュダルを万事屋に住ませることが決まった。
ちなみに漫画のことについては伏せてある。
最初は嬉しかった。
大好きなキャラのジュダルと、まさか共に過ごせるなんて。
「いいぜ。世話になってやるよ」
そう俺様に言われたけど、それすらも嬉しかった。
これから私とジュダルのラブラブ生活が始まるのだ。
だって夢小説ならだいたいそういう流れになってるから。
ずっと読みあさってきた経験上、間違いない。
だから私は期待した。
楽しい楽しいピンクな生活を。
「「ギャハハハハ!!」」
だが現実はどうだ。
半年程経ったのに、ラブラブどころかラブラブの[ラ]の字すら見当たらない。
今だって、銀ちゃんと二人こたつに入ってみかんを食べながらお笑い番組を見ていやがる。
私は頭に三角巾を巻いてエプロンをし箒を持って立ってるというのに、この馬鹿二人は見向きもしない。
『……銀ちゃん。ジュダル』
「「ギャハハハハハ!!」」
『…おい……聞けよ…』
「「ギャハハハハハハハ!!」」
『……おい聞けや天パに団子頭!シバくぞゴラァ!!』
ちっとも話を聞かない馬鹿二人の頭に箒の柄で殴りつけると、箒なのにドゴォと良い音がした。
「おぶっ!?…な、何しやがる…!」
「いぎっ!…ってぇ!おいブス!いきなり殴り掛かってくんじゃねーよ!」
『っせーんだよ脳内腐れコンビが。つーかブスじゃねーし。ジュダル君はいつになったら私の名前を覚えるんでしょうねぇ?』
「いででで!いてぇって!」
こんな美少女に向かってブスと吐き捨てたジュダルの脇腹をグリグリと柄で攻撃してやった。
ふんっ!ざまぁみろ!
「…なぁ名前。神楽と新八はどうした?」
『二人には買物行ってもらってる。ほら、二人も働いた働いた!大晦日まで時間無いし、今のうちに大掃除終わらせるよ!』
「はぁ?嫌に決まってんだろ。こんな寒い中掃除なん…かぁあ!?」
『っせーんだよプー太郎が。ちったぁ働きやがれ』
掃除と聞いた瞬間、有り得ないとばかりにこたつに潜り込もうとしたジュダル。
だが私はそれより先にジュダルの髪を力一杯引っ張り阻止した。
そしてついでに逃げようとした天パの頭も引っ張った。
「おいやめろ!抜けるって!つかギチギチ言ってるじゃねぇか!」
「あだだだ!なんで俺までェ!?」
『掃除やる?』
「やるやる!やるから手ェ離せ!」
「わかった!ちゃんとやるって!」
『よろしい』
観念した二人の髪を解放してやると、涙目になりながら頭をガシガシ掻いて立ち上がった。
私はそんな二人の姿を見る。
銀ちゃんは…まぁいつも通りだしいいとして、問題はジュダルだ。
ジュダルの身体、今はちゃんちゃんこ着てるから見えないけど、確実に肉がついている。
こっちに来てから、私達と一緒にダラダラとした生活を送ったせいで、ジュダルが太ってしまったからだ。
素敵でセクシーだった筋肉やお腹は、正直見る影無いだろう。
…いいのか、それで。
いいや、よくない!
ジュダルを愛する私としては、また昔のセクシーボディに戻ってほしい。
『銀ちゃん、ジュダル。二人はこれ着て掃除ね』
「あん?んだよ、これ」
『クサリカタビーラ、です。銀ちゃん』
二人に私特製鎖帷子を手渡すと、二人が凄い嫌そうに私を見た。
なんだその顔。
文句あるのかプー太郎共。
「おいぃ!何ちょっとかっこよさげに発音しようとしてんの!?つーか発音良くしてもダメだからねコレ!明らかにダメだからね!」
「なんだこれっ…!重っ…!」
『あ、それ40キロあるよ』
「お前馬鹿だろ!馬鹿だろお前!」
『うるせー天パ!いいからそれ着て掃除しろ!そして身体鍛えろ!ジュダルは痩せろ!』
「くっ…魔法が使えたら、この女を一撃で…」
『文句言ってんな!ここにはルフいないんだからしょうがないでしょがい!いいから働け!』
「くそ…!いつか絶対平伏させてやるからな!」
この世界にはルフがいないから、ジュダルは魔法が使えない。
つまり今のジュダルは怪力が売りの私よりも弱い。
半年間の生活からジュダルもそれを分かっているようで、最初こそは殴ったりしてきたものの、その度に反撃してきたためか最近は私に攻撃を仕掛けてくることをしなくなった。
『ほーら早く掃除しないと日が暮れるよー。今晩のすき焼きが無くなっちゃうよー』
「「!?」」
『1番働いた人には霜降肉が……』
「どけジュダル!ここは俺が掃除する!」
「ふざけんな銀時!霜降は俺のだ!!」
『………単純だなぁ』
霜降と聞いた瞬間、二人は鎖帷子を装備して凄まじい勢いで掃除を始めた。
すき焼きパワー恐るべし!
霜降パワー恐るべし!
…だけどこうして見てると、ずいぶんジュダルもここに馴染んだ気がする。
何となく、本来いるべき世界にいた時よりも楽しんでる気がする。
…漫画でしか表情とか見たことが無いから、本当に何となくだけど。
相変わらず仕事もお金も無いし生活大変で、全然ピンクな生活じゃないけど。
こういう生活は、嫌いじゃないな。
師走=忙しいとは限らない
「霜降は俺のだァアア!くたばれジュダルゥウウ!」
「死ぬのはお前だ銀時ィィイ!!」
『うぉおい!喧嘩しろとは言ってないぞコラー!!』
「ただいまヨー」
「銀さん、ジュダルさん、名前さん、帰りましたー」
『あ!二人共この馬鹿コンビ止めてー!』