SS(アニメネタ)10/12/22更新

□あわい
1ページ/2ページ


どれくらい、時間が経ったのだろう。
窓から差し込む光で、私の背が温まっている。

「――すまない」

イアルさんの手が私の肩から離れて、気づいた。
温かったのは、イアルさんの腕に抱かれていたから。
この手がしっかりと私の肩をつかんでいたから。

体が離れたことで、逆に今までの近さが思い知らされて、頬がカッと熱くなる。
よく考えたら、イアルさんに何も羽織らせてあげていなかった……。
むきだしになった肩から慌てて目をそらすと、急に恥ずかしさが込みあげてきて、赤くなった顔を隠そうと、私は下を向いた。

「あなたには迷惑をかけてばかりいるな」

今まで聞いたことのない溜息交じりの声に、そうっと顔を上げた。
顔をそむけたイアルさんの目はどこか遠くを見ている。

あれ? 頬が赤い?
もしかして、私の前で泣いたことが照れくさいの?
それとも……。

「迷惑だなんて思ってませんから……!!」

思わず、自分でも驚くくらいの声が出てしまった。
呆気にとられているようなイアルさんと目が合う。

あ……。恥ずかしい……。

「あ、あの……全然、思ってませんから……」

途中で勢いをなくした私を見るイアルさんの顔に苦笑が浮かぶ。
耳まで熱くなって、私は顔を伏せた。

口ごもったまま、うつむいていると、イアルさんの手が私の手に重ねられた。
そのぬくもりに高鳴る胸をよそに、剣の柄から私の手がそっとはずされる。
私が握りしめていた剣がイアルさんの手元に戻っていく。

私たちを隔てていた一振りの剣を何も言わずに目で追う私に、イアルさんが静かに語りかける。

「――今は、まだ、これを手放すわけにはいかない」
「イアルさん……」

私を見つめる目には、穏やかな決意がある。

「だが、すべてが終わったら……」

私は、その目を見返して、ただうなずいた。

――すべてが終わって、あなたの手が幸せをつかめるように。

あなたがあなたのために生きられるように。

私も私のなすべきことをします。

すべてが終わった時、それが新しい始まりの時になることを信じて――。


<終>
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ