SS(アニメネタ)10/12/22更新
□あわい
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どれくらい、時間が経ったのだろう。
窓から差し込む光で、私の背が温まっている。
「――すまない」
イアルさんの手が私の肩から離れて、気づいた。
温かったのは、イアルさんの腕に抱かれていたから。
この手がしっかりと私の肩をつかんでいたから。
体が離れたことで、逆に今までの近さが思い知らされて、頬がカッと熱くなる。
よく考えたら、イアルさんに何も羽織らせてあげていなかった……。
むきだしになった肩から慌てて目をそらすと、急に恥ずかしさが込みあげてきて、赤くなった顔を隠そうと、私は下を向いた。
「あなたには迷惑をかけてばかりいるな」
今まで聞いたことのない溜息交じりの声に、そうっと顔を上げた。
顔をそむけたイアルさんの目はどこか遠くを見ている。
あれ? 頬が赤い?
もしかして、私の前で泣いたことが照れくさいの?
それとも……。
「迷惑だなんて思ってませんから……!!」
思わず、自分でも驚くくらいの声が出てしまった。
呆気にとられているようなイアルさんと目が合う。
あ……。恥ずかしい……。
「あ、あの……全然、思ってませんから……」
途中で勢いをなくした私を見るイアルさんの顔に苦笑が浮かぶ。
耳まで熱くなって、私は顔を伏せた。
口ごもったまま、うつむいていると、イアルさんの手が私の手に重ねられた。
そのぬくもりに高鳴る胸をよそに、剣の柄から私の手がそっとはずされる。
私が握りしめていた剣がイアルさんの手元に戻っていく。
私たちを隔てていた一振りの剣を何も言わずに目で追う私に、イアルさんが静かに語りかける。
「――今は、まだ、これを手放すわけにはいかない」
「イアルさん……」
私を見つめる目には、穏やかな決意がある。
「だが、すべてが終わったら……」
私は、その目を見返して、ただうなずいた。
――すべてが終わって、あなたの手が幸せをつかめるように。
あなたがあなたのために生きられるように。
私も私のなすべきことをします。
すべてが終わった時、それが新しい始まりの時になることを信じて――。
<終>