短編集
□君がいない寒さ
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§君がいない寒さ
「おーはよ!」
「おっ!りち、おはよ!」
今日、エースに会った。
昨日もエースに会った。
毎日エースに会っている。
本人曰く、「偶然」らしい。
偶然にしては出来すぎてるよね。
だって、エースはサッカー部だし、朝練とかどうしてるんだろう。
ふむ。
どうやら神様は偶然を大出血サービスで大安売りしているらしい。
ま、エース嫌いじゃないからいいけど。むしろ嬉しいけど。
「りち、今日の一限なんだ?」
「数学かな?たぶん。」
「あー……シャンクスか…俺、あいつの授業眠くてさ〜…だから、ノートみして!」
あいつの授業って……あいつだけじゃないでしょ。
「数学だけでいいの?」
「日本史もお願いします。」
「よろしい。期限は明日の朝ね。」
「了解!じゃ、後で!」
「ばいばーい」
エースとの会話は途切れることは無くて、しかも楽しくて、片道20分の高校までの道のりもすぐだ。
もちろん、私に嫉妬している人もいるけど、私に害が及ぶ程ではない。
なんせ、我が校の一番人気は、3年のトラファルガー先輩だからね。
あれはすごい。あの量は反則。
でも、トラファルガー先輩の場合は、皆本気じゃなくて、憧れとか、追い掛けるのが楽しいとかそんな感じ。
それに比べると、エースは本気の人が多いかも。
でも、私とエースが一緒に登下校してるのは有名で、私がエースに気が無いのも有名。(余りにも、そんな素振りがないものだから、恋愛対象が女と言う噂がたったけど、私は男がすき。)
「なーに思索に耽ってんだ?」
「あ、ボニー。おはよ!」
「おう。」
ぼーっと歩いてると、不意にボニーに話し掛けられた。
「あれ?キッドは?」
「部活だってよ。ったく……」
「ふーん…」
ボニーは私の幼なじみ。
C組のキッドと付き合っている。(因みに私たちは、2年A組。エースは2年D組)
お互いツンデレだから、すぐわかれちゃうかと思ってたけど、案外長続きしてる。
うん、不思議だ。
「おい、私が隣にいんだから、自分の世界にはいんなよ!」
「ごめんごめん。あ、あと1分!」
「げ、マジかよ!遅刻したらりちの所為だかんな!」
「ボニーが話し掛けてこなかったら、何も起きなかったよ!」
「いいから、走るぞ!」
「あ、ちょ、まっ!」
*
「はい、ボニーとりち遅刻な。」
「シャンっ……クス…せんっ、せい……ひど、い!」
「あー?よく聞こえねぇなー…」
いくら高校生だからといっても、階段を3階まで駆け上がるのはきつい。
それにも関わらず、私は私の意思を一生懸命の言葉で伝えたのに、聞こえないとは何事・・・。
「親父化ですね!」
「ほほ〜ぅ……」
「あれ!聞こえちゃったんですか?おかしーなー、さっきと同じ声量なのにな〜…」
「………席着け。授業始めんぞ。」
シャンクス先生は数学の先生。
すっごい分かりやすいけど、すっごい面倒くさい。
何が?
性格が。
絡みか無駄に多いし、人のことおちょくるし!
そもそも私は数学嫌いだ。
そんな数学だけど、楽しみが一つ。
「(くやしいけど、カッコいい…)」
エースの体育が見られる。
見た目通りの運動神経で、見た目通りアグレッシブさ。
頭の悪ささえ抜けば、完璧だな……
「はい、じゃあそこの窓の外しかみていないりち!問3解いてみろ。」
「え……と、問3?」
「ま〜さか、授業聞いてなかったとか言わないよな?」
「(そのまさかだよ!!!)」
「次からはちゃんと答えろよ、青少年! 席着いていいぞ。」
「すみません……」
覚えてろよシャンクス……
あーーーー!もうエースのせいだ!エースのせいで!!
あいつさえ授業してなければ、私はあいつを見ることもなくって、でも見たい気持ちもちょっとあって。
……いやいや、そんな、見たいだなんて…
考えれば考えるほど、こんがらがってきた。
うん、性に合わない!
もういい、今日は一人で帰る。
追及がめんどくさいから一人で学校行く!
だってなんかこれ以上一緒にいちゃいけない気がする。
よくわかんないけど。
…よくわかんないけど。
別に一人だって寂しくないしね。
多分…
君がいない寒さ
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