短編集

□君がいる温かさ
1ページ/1ページ



§君がいる温かさ







「りちー、一緒に帰るぞー…………お?」




放課後、りちを迎えに行ったらいなかった。



(りちなら、ボニーと帰ったよ。)


ってナミが言ってた。


ボニーと?俺じゃなくて?


なんか悔しい。

大体、ボニーにはキッドがいるじゃないか。俺にはりち、ボニーにはキッド。なんの不満があろうか。(いや、ない。断じてない。)


「欲張りボニーめ。」


帰ったのなら待っても仕方ない。だから、仕方なしに俺は一人で帰ることにした。


久しぶりの一人の帰路。思いもよらず狂った日常に少し戸惑う。


(一言ぐらい残してけよな……ってかチャリはぇー)



一人ごちつつ乗る自転車。後ろに居たはずの重みが無い分、早く進む。思わず己の脚力に自己陶酔してしまう程に。



なんでだろう。どうしてだろう。




考えるだけ無駄な事はわかってても考えてしまう。




なんでだろう。どうしてだろう。



やっとここまで来たのに。


もう少しで手に入るはずだったのに。


「フラれた?」


いやいや、ネガティブはいかん。俺はエースだ。そもそも、付き合ってないんだ、別のヤツと帰りたい時もあるよな。


わけの分からない自己暗示を掛け、折れそうな心を繋ぎ止めつつ、家路を急いだ。




*




翌朝、迎えに行くと、りちはいなかった。


おばちゃん曰く

「朝練らしいわ〜」

だそうだ。
帰宅部の朝練って何だ?



あいつ、オレのこと避けてんのか?嫌いになったのか?



いやいや、ネガティブはいかん。朝からテンションミニマムなんてごめんだ。 

仕方なしに、オレはまた一人で自転車に乗った。


(やっぱ、はぇーよな)




だがしかし、オレの悲劇はこれでは終わらなかった。


その日の放課後、まためげずにりちを迎えに行った。


結果、いなかった。


その次の朝、りちを迎えに行った。


結果、いなかった。




「これはさすがに………」



思わず漏れる弱音。




だって、仕方ないじゃないか、ずっと好きだったんだから。


周りのヤツらは面白がってるが、ヤツの考えてる何億倍もオレはあいつが好きなんだ。



やっとここまできたんだ。


気持ちを伝えるのに臆病で、唯の友達ヅラしてた。



1時間目が体育の朝は、ぁいつの為にいつもより頑張った。



「許せねぇ……」



オレになんにも言わないりちも許せないが、何より自分の意気地の無さが許せない。


このまま何もしないで、本当に唯の友達に成り下がるのか?


悪くはないが、残るのは後悔と失望。



(あー!わけわかんねーけどイライラしてきた。)






気が付いたときには、もうりちを探していた。





*








「りち!」


「あ、エース……」


「す、好きだ!」



って俺は何言ってんだぁああぁ!


いきなり好きだとか、突然にも程があるだろーがよー!


ほらな、あいつ固まってるし。


フラれたらオレ、立ち直れない。


こんな告白でフラれたら一生の恥…



「……ねぇ、いま、なんて…?」



もう一度言うのか?

あれを?


な、何プレイだよ……



「だから、………好きだ。」


あぁ、穴があったら入りたい………


オレ、こんなキャラだったか?




オレってさ、なんかこう、もっと、でーんとしててさ、カッコいい感じでさ……優しくてさ……


「エースはさ、私の気持ち、わかる?」


面白くて……



え?



フラるフラグ?



「わかる?って?」


「まんまだよ。私の今の気持ち。」




落ち着けオレ。

最良だ。最良の答えだ………


最良、さいりょう、サイリョウ…



「うれし……い?」



あぁ!聞くなよオレ!
もうダメだ。
終わりだ。



「……な、何で聞くの?……まぁ、…あたり、だけど…さ。」




あたり?


「だって、さ、あのさ、一人で帰るとさ、寂しいしね……あのさ、いままで、ごめん。」


「ごめん……って…?」


「…エース、を、友達として見られなくなるのが怖くて……それで、どうしていいかわからなくて……避けてた。」


「じゃあ、オレ、嫌われてたわけじゃないんだな?」


「………うん。」



「よ、よかった……大体お前、一言くらい残してけよな……ヒヤヒヤしたじゃんか……」









その日の帰路は、遅かった。








そして、
君がいる温かさ
36度を分け合う




_

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ