短編集
□君がいる温かさ
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§君がいる温かさ
「りちー、一緒に帰るぞー…………お?」
放課後、りちを迎えに行ったらいなかった。
(りちなら、ボニーと帰ったよ。)
ってナミが言ってた。
ボニーと?俺じゃなくて?
なんか悔しい。
大体、ボニーにはキッドがいるじゃないか。俺にはりち、ボニーにはキッド。なんの不満があろうか。(いや、ない。断じてない。)
「欲張りボニーめ。」
帰ったのなら待っても仕方ない。だから、仕方なしに俺は一人で帰ることにした。
久しぶりの一人の帰路。思いもよらず狂った日常に少し戸惑う。
(一言ぐらい残してけよな……ってかチャリはぇー)
一人ごちつつ乗る自転車。後ろに居たはずの重みが無い分、早く進む。思わず己の脚力に自己陶酔してしまう程に。
なんでだろう。どうしてだろう。
考えるだけ無駄な事はわかってても考えてしまう。
なんでだろう。どうしてだろう。
やっとここまで来たのに。
もう少しで手に入るはずだったのに。
「フラれた?」
いやいや、ネガティブはいかん。俺はエースだ。そもそも、付き合ってないんだ、別のヤツと帰りたい時もあるよな。
わけの分からない自己暗示を掛け、折れそうな心を繋ぎ止めつつ、家路を急いだ。
*
翌朝、迎えに行くと、りちはいなかった。
おばちゃん曰く
「朝練らしいわ〜」
だそうだ。
帰宅部の朝練って何だ?
あいつ、オレのこと避けてんのか?嫌いになったのか?
いやいや、ネガティブはいかん。朝からテンションミニマムなんてごめんだ。
仕方なしに、オレはまた一人で自転車に乗った。
(やっぱ、はぇーよな)
だがしかし、オレの悲劇はこれでは終わらなかった。
その日の放課後、まためげずにりちを迎えに行った。
結果、いなかった。
その次の朝、りちを迎えに行った。
結果、いなかった。
「これはさすがに………」
思わず漏れる弱音。
だって、仕方ないじゃないか、ずっと好きだったんだから。
周りのヤツらは面白がってるが、ヤツの考えてる何億倍もオレはあいつが好きなんだ。
やっとここまできたんだ。
気持ちを伝えるのに臆病で、唯の友達ヅラしてた。
1時間目が体育の朝は、ぁいつの為にいつもより頑張った。
「許せねぇ……」
オレになんにも言わないりちも許せないが、何より自分の意気地の無さが許せない。
このまま何もしないで、本当に唯の友達に成り下がるのか?
悪くはないが、残るのは後悔と失望。
(あー!わけわかんねーけどイライラしてきた。)
気が付いたときには、もうりちを探していた。
*
「りち!」
「あ、エース……」
「す、好きだ!」
って俺は何言ってんだぁああぁ!
いきなり好きだとか、突然にも程があるだろーがよー!
ほらな、あいつ固まってるし。
フラれたらオレ、立ち直れない。
こんな告白でフラれたら一生の恥…
「……ねぇ、いま、なんて…?」
もう一度言うのか?
あれを?
な、何プレイだよ……
「だから、………好きだ。」
あぁ、穴があったら入りたい………
オレ、こんなキャラだったか?
オレってさ、なんかこう、もっと、でーんとしててさ、カッコいい感じでさ……優しくてさ……
「エースはさ、私の気持ち、わかる?」
面白くて……
え?
フラるフラグ?
「わかる?って?」
「まんまだよ。私の今の気持ち。」
落ち着けオレ。
最良だ。最良の答えだ………
最良、さいりょう、サイリョウ…
「うれし……い?」
あぁ!聞くなよオレ!
もうダメだ。
終わりだ。
「……な、何で聞くの?……まぁ、…あたり、だけど…さ。」
あたり?
「だって、さ、あのさ、一人で帰るとさ、寂しいしね……あのさ、いままで、ごめん。」
「ごめん……って…?」
「…エース、を、友達として見られなくなるのが怖くて……それで、どうしていいかわからなくて……避けてた。」
「じゃあ、オレ、嫌われてたわけじゃないんだな?」
「………うん。」
「よ、よかった……大体お前、一言くらい残してけよな……ヒヤヒヤしたじゃんか……」
その日の帰路は、遅かった。
そして、
君がいる温かさ
36度を分け合う
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