短編集

□分かち合う
1ページ/1ページ


§分かち合う





「はぁっ……はぁ、あっ――――…!」






果てると同時に襲いくる倦怠感。

少しずつ眠くなる。


いつもならこれで終わりだ。でも今回は違う。私の大半を占めるのは「満足感」。

これからあなたの歩んできた人生の一部でも味わえる、共有できるという満足感。

それに満たされながら力なく横に崩れたあなたを見る。
優しく、けれど、その腕(かいな)から出ることを許さないような強さで私を抱き締める。
細く華奢なその腕には、無数の刀傷がある。
しかし、薄く、それでいて頼りがいのある胸に刀傷はもう見えない。

そう、赤班に埋め尽くされたその胸は、見るのも難いほどの色をしているが、どこか安心感を伴っている。


「……剣心…。」


唇を薄く開いて呟くと、それを掻き消すように、口付けをされる。

しばしの後、乱れた息のままあなたを見ると、哀愁を帯びた微笑みのあなたと目が合う。


「……心太。…それが俺の両親が付けてくれた本当の名前」


「…しん、た…?」


嗚呼、すごく嬉しい。やっと、やっと……ここまで来て、やっと剣心の心安らげる場所―居場所が私の隣になった。


「そう、剣心は俺が剣の道に相応しいようにと、師匠が付けてくれた名前だ。」

でも、あの人は?あの人は知っているの?

嗚呼、欲深い自分が憎らしい。消えてしまいたい。この幸せの中で消えてしまいたい。
今、ここで死んだら、あの人を拭いされる…あぁ…。


「なぁ、薫……」

「……なんです、か?」


「俺が、……俺が次に帰って来たときは、俺の本当の名前で迎えて欲しい。…本当の名前で……」




虚空を見つめて呟くあなたにただ頷く。


その目に映しているものは何?




分かち合う

(それでも私はあなたの妻ですから。)



_

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ