短編集
□分かち合う
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§分かち合う
「はぁっ……はぁ、あっ――――…!」
果てると同時に襲いくる倦怠感。
少しずつ眠くなる。
いつもならこれで終わりだ。でも今回は違う。私の大半を占めるのは「満足感」。
これからあなたの歩んできた人生の一部でも味わえる、共有できるという満足感。
それに満たされながら力なく横に崩れたあなたを見る。
優しく、けれど、その腕(かいな)から出ることを許さないような強さで私を抱き締める。
細く華奢なその腕には、無数の刀傷がある。
しかし、薄く、それでいて頼りがいのある胸に刀傷はもう見えない。
そう、赤班に埋め尽くされたその胸は、見るのも難いほどの色をしているが、どこか安心感を伴っている。
「……剣心…。」
唇を薄く開いて呟くと、それを掻き消すように、口付けをされる。
しばしの後、乱れた息のままあなたを見ると、哀愁を帯びた微笑みのあなたと目が合う。
「……心太。…それが俺の両親が付けてくれた本当の名前」
「…しん、た…?」
嗚呼、すごく嬉しい。やっと、やっと……ここまで来て、やっと剣心の心安らげる場所―居場所が私の隣になった。
「そう、剣心は俺が剣の道に相応しいようにと、師匠が付けてくれた名前だ。」
でも、あの人は?あの人は知っているの?
嗚呼、欲深い自分が憎らしい。消えてしまいたい。この幸せの中で消えてしまいたい。
今、ここで死んだら、あの人を拭いされる…あぁ…。
「なぁ、薫……」
「……なんです、か?」
「俺が、……俺が次に帰って来たときは、俺の本当の名前で迎えて欲しい。…本当の名前で……」
虚空を見つめて呟くあなたにただ頷く。
その目に映しているものは何?
分かち合う
(それでも私はあなたの妻ですから。)
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