短編集
□三つの碧眼
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§三つの碧眼
久し振りに兄さんに会った。
まぁ、鏡を見ればいつでも会えるわけだが、実際に会うのとは何かが違う。
そんな兄さんだったけど、まさか、こんなに無茶をする奴だとは思ってなかった。
「どうしたんだよ、その目。」
「ん?あ、あぁ…これか?」
バツが悪そうに右を向いて俺の視界から右目を消す。
しかし、本当にどうしたんだ?
北欧人に多いグリーンアイの俺たちだが、北欧外では珍しいアイカラーで、町を歩くたびに羨望の眼差しを受ける。
俺はそれが少し嬉しくて、両親から授かったこの目が自慢だった。
「二ヶ月ぐらいまえに、交通事故でやっちまった………」
兄さんのバツの悪そうな声が響く。
「何で再生治療を受けなかったんだ……?」
この時代の医療技術で、復元できない器官なんてない。
ただし、傷さえ塞がってなければだ。
もちろん、腸や胃などの管の類いは手術で細胞を取り出せば再生可能だか、目、鼻、口などになると、切れてしまったりした神経の関係で、一度塞がると、修復困難だ。
知ってるだろ?
ジャパニーズでの、「善処します」、「修復困難」の類いは、「NO」ということだ。
わかりづらい言語だ。アイリッシュなら、「YES」か「NO」しかないのにな。
まあ、そんなことはいい。
それより、兄さんの答えが知りたい。
「兄さん……どうして?」
「だって……お前が……」
「…俺が?」
握った拳を震わしている。
これは、不安な証拠。
そして、俺の癖でもある。
「ライルが、…っ、俺と…なかなか、会ってくれないから…」
「…それは、お互い仕事も忙しいし、……鏡を見れば、とりあえずは会えるだろ?」「それだよ!俺はそれがいやなんだ!」
実際に会って、ライルと話したいんだ……本物に触りたいんだよ…
兄さんは俺にすがりついて、今にも消えそうな声で訴える。
突然のことでびっくりしたが、こんなに甘えん坊な兄さんも珍しいから…なんか…その、嬉しい…。
「…兄さん」
――だから、目を…?
と聞きながら、優しく兄さんを抱きしめる。俺の肩口に顔を埋めて、うなずいているのがわかる。
「…鏡じゃもう会えないなぁ…」
俺が呟くと、俺の首に回してあった兄さんの腕が少しきつくなって、ごめん、と呟いた。
別に、謝って欲しくて言ったわけじゃないのにな。
「……ニール」
しばしの沈黙の後、俺が兄さんの名前を呼ぶと、ん?、とくぐもった声が帰ってきた。
「……一緒に住もうか…。」
とっさに顔をあげて、ぽかんとした顔で俺を見る。何その顔、めっちゃうける。
「…い、いいの…か?」
「ダメだったら言わねぇよ。」
いい終わるか否や、ものすごい勢いで兄さんは俺に抱きついてきた。
兄さんの突進に耐えきれずによろめいてる俺にお構い無しで、ライルー!、だとか、大好きだー!、とか喚いている。
「…でも、仕事やめるのは兄さんだからな」
「あぁ、わかってるさ!……でも、やめるのは一向に構わないんだが、「俺に任せとけ。」
また、目がきらきらしてきた兄さんは、ライルー!、とか、大好きだー!、だとか喚きながら抱きついてきた。
三つの碧眼
失った分のいとおしさ。
(俺も愛してる。)
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