瑛×主
ー大学卒業後ー
「おい朝だぞ…起きろ」
「…んっ……まだ眠たい。」
「仕込みの時間だ、開店に間に合わなくなるだろ。」
重だるい身体を起こすと窓からは海に反射したキラキラとした光が部屋に降り注いでいる。
そこに香ばしい嗅ぎ慣れた匂いが鼻をつく、それは瑛君の淹れてくれたコーヒー。
コトッと音を立ててベットサイドに置かれたマグカップは私専用の大きめなシェル柄のペアマグカップ。
「ほら、早く服着て下に下りて来いよ」
気候のいい今の時期だからと言うわけではないけど、私は今、正に一糸まとわぬ姿。
二人で使っているタオルケットを身体に巻きつけてベットの背もたれへと身体を預け、瑛君の淹れてくれた美味しいコーヒーに口を付けた。
瑛君は既に喫茶珊瑚礁の制服に身を包み、髪型もビシッと整えられている。
昨日の夜の瑛君とは大違い。
「美味しい。」
「そりゃ俺が淹れたんだからな」
「まだ、眠いよ…もう少しだけ…」
ズルズルと身体を元あった位置へと戻そうとすると
バシッ!
「甘い、そうはさせない。」
いたーい。瑛君のチョップを受けて私がふくれっ面になっても、いつものことの様に、鼻で笑いながら優しい笑顔を見せてくれる。
「こんなに眠いのは、瑛君のせいなんだから…」
「何?何か言ったか?」
ずるい。今のは絶対、耳に届いてたもん。
意味は分かってるとニヤリと口角を上げて私に返答してくる。
「昨日の夜、瑛君が…あんなにその…」
「あんなに?」
絶対分かってるのに、ニヤニヤしながら私のこと、からかってるんだから。
「もう、知らない。」
プイと顔を背ければ、分かった分かったと大きな瑛君の手が私の頭をクシャッと撫でてくれる。
「昨日は少し無理させて悪かったって、今日の賄いはオムライス、これで手を打たないか?」
「オムライス?!」
瑛君とは逆の方向へ向いていた私は、即座に瑛君の方へと向きを変えた。
途端にプッと吹き出し笑いだす瑛君。
「お前ほんと色気より食い気だよな」
「何よ!もう!!」
バシバシと瑛君の腕を叩いているのに、彼は少しも痛くないのか、軽くガードする様に腕を曲げたまま、クスクスと笑い続けてる。
「ほら、いい加減時間がまずい。急げよ」
片手には、私とお揃いのシェル柄のマグカップを持って部屋を出て行く。
この後、またいつもの日常が訪れる。
大学卒業をして2人で再開させた喫茶珊瑚礁、2人だけで始めたお店はありがたいことに忙しい日々が続いている。
この美味しいコーヒーを毎朝タダで飲めるのは彼女である私の特権。
またコーヒーをすすりながら、窓の外に広がるキラキラと光る水面に見とれてしまう。瑛君が『いつかお前にも見せてやりたい』と言ってくれていたこの景色。今では私もこの風景が大好きだよ。
「おーい!早くしろーオムライス作ってやんなぞ!!」
「やっダメ!もうお口がオムライスなんだから!!」
下からは愛しい人の呼ぶ声。
窓の外は大好きな景色に美味しいコーヒー。
愛しいもの大好きな物に囲まれた私の毎日は本当に幸せです。
瑛君とこれからも、いつまでも2人の大好きな物をしっかりと守っていきたい。
そんな事を改めて心に思いながら着替えを急ぎ彼の元へと向かった。
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