今日の兄さん(2013年)
□12月8日
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クリスマス向けの小さめのイベントの中に、それはあった。
「ねえ、スケートリンクだよ!」
イルミネーションやキラキラするものがカラス同様に大好きなアルフォンスが、オレの手を引っ張って、その小さなアイススケートリンクに連れていく。
元々こいつに逆らうようなことはしないオレだ。
情けないと言われそうだが、力でも・・・まあ、なんだ、いろいろなことで負けている身としては、逆らうほど頭悪いわけでもない。
なにより、過去いろいろ逆らってみて、もうしませんごめんなさいと言うまで泣かされたことは、オレの骨の髄まで染み込んでいる。きっともう、DNAにも染み込んでいる。
「滑ろうよ!」
「え、おまえ、滑れるの?」
「少しだけどね」
少し・・・
これって、もしアルフォンスが転びそうになったら、俺が支えてやらんといけないパターンか?
そういう役目か?
こんな一回りも二回りもデカい男を支えなけりゃいけないのか?
オレが悪いのか?
「ミニスカートで、大丈夫なのかよ?」
「大丈夫、大丈夫!靴借りてこよう!」
ああ、もう誰にも止められない。
オレより大きい靴を嬉しそうに履いて、満足そうにしている。
「エド、早く!」
また引きずられるように、リンクに乗せられた。
自分の足元もフラフラするけど、それ以上にフラフラしているアルフォンスを見て、呆然とした。
なんか、可愛く見えるぞ、オレ。
あれ、なんか変じゃね?
いや、きっと、氷の乱反射のせいだ、うん。
「エド、楽しいねー」
満面の笑みのアルフォンスは、可愛い。
オレは間違ってない。
だから、そこの恋人連れ、特に男、見るんじゃねえ。
一人で滑ってるやつも、ほどほどいる。
そいつらが、アルフォンスのことをチラチラ見ているのにも、気がついた。
絶対、転ぶの期待している。今までの経験から、それは当たってる。
オレ的には、こんな190センチ超えた野郎の太ももを、衆人観衆の目に晒したら犯罪じゃないかと思うのだけれど。
「エド、こわーい」
明らかにわざと、オレの腕にしがみつくアルフォンス。
おまえ、さっきまでフラフラしながらでも、ちゃんと滑ってたじゃないか。
だから、そこらへんの野郎ども、オレを見るなって。
ちゃんと自分の恋人、見てろよ。
「あっ!!」
「うわっ!」
バランスを崩したアルフォンスに、オレが釣られて盛大に転んだ。
「痛―っ。エド、大丈夫?ごめんね」
「いや、オレのほうこそ・・・」
と、やっこらしょと起き上がろうとして、リンクよりも冷たい視線が刺さる。
若干前かがみになっている奴らからだと、すぐにわかった。
「アル、スカート濡れてるぞ」
「え、本当?」
「新しいの買ってやるから、建物の中に入らないか?」
オレ、ちょっと冷えたし、と続ければ、根は性格の良いアルフォンスはくったくのない表情で頷いてくれた。
買い物は買い物で、オレの神経を地味に削っていくけれど、今この状況よりマシだ。
前かがみのまま、オレに恨みがましい目で、まだ見ている奴らに聞きたい。
おまえら、もっこり膨らんだレースのパンツみて、そんなに嬉しいか?
なんでそこを無視できるんだ?
「エド、早く行こうよ!」
「ああ・・・」
「エドから買い物行こうって言ってくれるの、珍しいね」
「ボーナス出たしな」
きゃっきゃとはしゃぐアルフォンスの腕を組まされて、オレは脳内BGMドナドナで、スケートリンクを後にした。
終わり。