今日の兄さん(2013年)

□12月7日
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 12月になると、すでに夕方で真っ暗になってくる。
 日の出も遅く、アルフォンスが起きるころは、まだ部屋は暗かったりする。
 昼間の明るい時間がどんどん少なくなって、引き換えに夜がどんどん長くなってくる季節だ。
「オレの季節だな!」
「なんで?なんか吸血鬼って、夏のイメージだけど」
 胸を張る吸血鬼だけど吸血鬼らしからぬ性質の兄を、ソファで抱え子猫のように背を撫でながらアルフォンスは聞いた。
「だってオレ、夜の帝王だそ!闇に住む異形の王!」
「ふーん」
 こんな言い分も随分聞きなれたので、さらっと流す。
 エドワードの頭を撫でると、指どおりの良いふわふわサラサラの長い金髪が気持ちいい。
「まあ、なんでもいいけど。兄さんが元気なのは嬉しいよ」
「おう!今日あたり、夜の散歩でもしようかな」
「夜は危ないからね。遅くならないうちに、ちゃんと帰ってきてね」
「大丈夫だって!アルは心配性だなあ」
 若干会話が噛み合ってないような気がするが、弟可愛さにエドワードも深く追求しなかった。



 夕食が済み、二人でテレビを見ていると、エドワードの頭がアルフォンスの肩に乗ってきた。
「眠いの?」
「眠くなんて、ない・・・」
 時計を見ると、まだ11時前だ。大学生のアルフォンスには、まだ宵の口のようなものだ。
「兄さん?」
「や・・・だから・・・ちょっと、散歩・・・」
「眠いなら、ベッド行く?」
「や・・・だって、オレ、吸血鬼で・・・よるのてーおー・・・」
 ろれつの回らなくなった口調で、眠さで盛大に目を擦るエドワードの手を止める。
 角膜に傷でもつけたら痛いだろう。可哀想だ。
 吸血鬼だから、再生力もハンパ無いが、見ているほうも気になって神経に障る。
「じゃあ、ちょっと横になれば?で、もっと深夜になってから散歩に出れば?」
「・・・そう、する・・・」
 よろよろしながら、ベッドルームに行くのを見送った。


 これで、朝まで起きてこない。


 普通の大学生で人間であるアルフォンスよりも、早寝早起きの習慣の自称吸血鬼たぶん吸血鬼な兄が、一日10時間も寝ていることを、アルフォンスはこの時まだ知らなかった。
アルフォンスにとっての吸血鬼。
 それは、自分より良く眠り、朝は近くの公園でたまに婆ちゃん爺ちゃんたちに混ざってラジオ体操までやってる、皇帝というよりは子供と代わらない、もしかしたら吸血鬼な兄のことだった。


終わり

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